絹子は、今日、電話で話した小夜子の言葉を思い出していた。


〈 お母さん、私、今とっても幸せなの。

だって私には、素敵な夫の武士さんがいて、かわいらしい娘の百合子がいて…… 〉


〈 ちょっと古い家だけど、私たちの家もあるの。

二階建てで、小さな庭があって…… 〉


一部屋しかない古いアパートで小夜子と暮らしていたときのことが、絹子の頭の中で蘇った。


〈 お母さん、私、世の中ってとっても不公平で、生まれながらに幸せな人と不幸せな人がいて、私は幸せになれない人なんだと思っていたの。

寺田小夜子は、童話の世界の貧しい灰かぶりの少女、魔法にでもかからない限り、決して幸せになれないって 〉