「桜井由美?
あの僕たちの同級生の桜井由美かい?」
「ええ、その桜井由美よ。
彼女ね、私の憧れだったの。
だってあの人は、私とは違って何でもできたから。
スポーツも勉強もね。
きれいな艶のある長い髪をして、同じ制服を着ているのに、彼女だけは違って見えて……」
「小夜子は、桜井由美をそんな風に思ってたんだ」
「ええ、そうよ。
彼女、白くて長い指で、上手にピアノを弾いたりしてたわ。
それと、雨の強く降る朝に、彼女が車で学校に送られてきたことがあって、私、高級車から降りてくる彼女を見て、すごくうらやましくて……」
「小夜子は、二十年以上も昔のことをよく覚えてるね」
「彼女は私の憧れだったから、私は彼女のことをいつも見ていたのね」
「そうなんだ。
桜井由美も、小夜子からそんなに思われていて幸せだね」
「でもね、私の憧れの存在は、桜井由美だけじゃないのよ」
「そうなんだ。
桜井由美以外にもねぇ」
「それが誰か、あなたにわかる?」
私は、そう言って武士を見つめた。