百合子がリビングから二階にある自分の部屋に戻ると、武士は飲みかけのコーヒーカップをテーブルに置いて、私に話しかけた。


「さっきの百合子の話だけど、顔中に包帯を巻いている女なんて、気味が悪いな」


「ええ、そうね。

百合子には、何もなければいいのだけど……」


「それに、茶髪のショートカットに、白いレインコートなんて馬鹿にしてやがる」


「えっ、どういうこと?」


「いや、何でもない。

ただ、俺の嫌な記憶とその女が、少しだぶっただけさ」


武士はそう言って、飲みかけのコーヒーカップを手に取った。


「話は変わるけど、これからは、今までよりも忙しくなるから、家に帰る時間も遅くなると思う」


「そうね。

これからは、課長になるんですものね」


「百合子のことは、小夜子に任せることが多くなると思うけど、そのときはよろしく頼む」


「ええ、わかったわ」


私はそう言ったあとに、武士を見つめた。


「私ね、百合子のことをあの桜井由美のような女の子に育てたいの」