“今日、午前10時頃、××県××市の商店街で、通り魔による殺傷事件が起きました”
テレビのニュースキャスターがそう言うと、武士はテレビから目を背け、露骨に嫌な顔をした。
武士は過去の記憶から、こういった事件を本当に嫌っていた。
「くだらないことをする奴もいるものだ」
武士は、不機嫌そうにそう言うと、百合子に目を向け話しかけた。
「百合子は、こういう事件に巻き込まれないように、不審な大人についていっては駄目だよ」
「不審な大人って?」
「怪しくて、危なさそうな大人のことだよ」
百合子はそう言われて、首を傾げた。
「怪しくて、危なそうな大人?
それはどこでわかるの?」
「そうだなぁ。
それじゃ、まず最初に相手の大人の顔を見なさい。
そうすれば、なんとなくその人が良い人か、悪い人かわかるはずだよ」
「それじゃ、もし、顔を全部、包帯で隠している女の人に会ったらどうすればいいの?」
「そんな人は、この辺にはいないだろう」
武士がそう言うと、百合子は武士の顔を覗き込んだ。
「そんなことないわ、お父さん。
最近、学校で噂なの。
顔中に包帯を巻いた女の人がいるって。
その女の人は、茶髪のショートカットで、いつも白いレインコートを着てるって」