「お母さん、私ね、今度の音楽祭でピアノの伴奏をすることになったの」
「百合ちゃん、本当に?
凄いわね。
お母さんも、百合ちゃんのピアノの伴奏聴いてみたいわ」
「駄目よ、お母さん。
お母さんは、音楽祭には来れないのよ」
「あら、そうなの?
それはがっかりね」
「お母さんが来てもいいのは、来月のピアノの発表会だよ」
百合子はそう言って、下から私を覗き込むようにして笑った。
私は娘の百合子を育てるにあたって、ひとつの理想を持っていた。
この子を私の憧れだったお嬢さま、桜井由美のような女の子にすること。
桜井由美は、私の中学の同級生で、スポーツも勉強もでき、誰からも好かれる優等生だった。