こんなに激しい雨の中を、百合子はちゃんと学校から帰ってこれるだろうかと武士は思った。


それでなくとも、最近の百合子は、あの激しい雨が降った日の事件以来、精神的におかしくなっているというのに……。


傘を差していても、武士の着ているスーツは雨に濡れ、靴は水たまりの中に浸っていた。


早く会社に戻って、この雨から逃れなくては……。


武士がそう思って、二車線道路の向こう側にあるビルへ足早に歩いていたとき、武士が渡ろうとしていた横断歩道の信号機は、青から赤へと変わった。


それと同時に、信号待ちをしていた車が一斉に走り出し、武士が渡ろうとしていた横断歩道を塞いだ。


武士は、水しぶきを上げながら走っていく車を横目で見ながら、激しく降る雨を呪った。