寺田絹子は、病院の待合室の近くにある公衆電話で小夜子と話し終えると、ゆっくりと受話器を電話に戻し、静かに目を閉じた。


幸せとは縁のなかった自分に、今、幸せの足音が近づいてきている。


「お母さん、私、今とっても幸せなの」


小夜子が明るい声で言ったその言葉が、絹子の胸に響いて、消えなかった。


小夜子には、服を買ってあげられなかったし、遊びにも連れていけなかった。


貧しい家の子が未来を切り開こうとするとき、学校で学んだことが必要になるはずなのに、小夜子は学校にも行けなかった。


小夜子の未来を暗く閉ざしてしまっているのは、間違いなく自分の不甲斐なさだったと絹子は思った。


もしも、自分の体が丈夫だったら……。


もしも、小夜子にちゃんとした父親がいたら……。


もしも、小夜子が別の家の子供だったなら……。