あの当時の私には、桜井由美の他に、もう一人の憧れの人がいた。


それは、今の私の夫である山村武士である。


私は、いつでも山村武士の姿を追っていた。


彼の真剣な顔も、彼の笑った顔も、彼の優しい声も、彼のすべてが私を夢中にさせた。


山村武士は陸上部のキャプテンで、背が高く、学校の成績も常にトップクラスだった。


山村武士は、誰にでも優しかった。


男にも、女にも、この私にも。


山村武士と私が廊下ですれ違い、彼と私が挨拶を交わすとき、彼は決まって笑顔で私に声を掛けてくれた。


そして私は彼と言葉を交わした余韻に浸り、何度も何度も、彼の笑顔と彼の優しい声を思い返した。