「あなたは恵まれていたから、甘くて優しい言葉が言えるの。

でも、幸せは誰にでも平等にあるわけじゃない」


「別に僕は、甘くなんかない」


「いいえ、甘いわ。

だって武士さんは学生の頃、塾に行けるのが当たり前だと思っていたでしょ。

高校に進学できることに感謝なんてしなかったでしょ」


私は涙が溜まった真っ赤な目を武士に向け、話しを続けた。


「私は、みんながうらやましかったから……。

私も、みんなと同じようになりたかったから……」


「でも、小夜子。

仕方がないよ。

百合子は怯えていて、学校になんて行けない」


「武士さん、私ね……」


私が出した小さな声は、震えていた。


「百合子をあの桜井由美みたいな女の子にしたいの。

あの人は、私の憧れだったから。

私、あの人を見ると胸が締めつけられたわ」


私はそう言って、武士から目を逸らした。


「だって、私とあの人はあまりにも違い過ぎてたから……」