「お疲れ会をしようぜ。ほら、俺達もう、解散じゃん。」

汗びっしょりでベースを背負う、上橋さんが言った。

バンフェスは終盤を迎え、背後からは終わりを惜しむ観衆の声がする。

朝には冷えると感じても、演奏後は微塵も感じない。

逆走シンデレラの3人は、並んで会場の門を出、歩いている。

「香奈さん、来れるんですか?」

「俺が呼ぶ!」

「そうすか。」

「…何だその言い方…。」

ぶつぶつ言いながら、上橋さんが文字を打ち始めた。


穂は、綾香と上橋さんの会話を、自分の影を見ながら聴いている。

「あれ、先輩、そのキーホルダー、香奈さんも付けてませんでした??」

上橋さんの携帯から揺れる、水色のイヤホンジャックを見つめ、綾香が言う。

どこかのお土産の様なキャラが、片手を広げていた。

ばっ、ちげ、見間違え、だ!えー?

横の騒ぎが、ふいに前になった。

「…?」

どこの角から表れたのか、長身の男性が、穂の前に立っている。

いや、男性というより男子である。

齢は高校生位だろうか、、

まるで行く手を阻むように。

青い帽子、黒く長いジャケット、深い色のサングラス、そしてマスク。

正に不審者の、それである。

「…あの、…すみません。」

そう言って脇をすり抜けた穂に、男性が急に言った。

「君の歌。」

驚いて振り向いたのと同時に、また彼が言った。

何か深い思いがあるけども、それを伝えられない様な、でもはっきりした声で。

「嫌がらせレベル。」