一樹side
「ういーっす」
俺はいつも通りの朝練を終えて教室に入り自分の席の隣の渡辺に挨拶した。
「お、おい!お前、瑠衣見たか?」
「え?いや、見てねーけど」
「やっべーよまじ!!」
「あ?なにがだよ」
渡辺に問いただそうとしたとき、廊下から男どものざわつきが聞こえた。
「あれ、本当に木村かよ、めっちゃくちゃ可愛いじゃん」
「まじかよ、なんで気付けなかったんだろうな」
ざわざわしているのがわかる。
なんなんだ。
「おい、渡辺。どうしたんだよ」
「いや、それがさ…」
ガラガラ
教室が開く音がして、そっちを向くと
「瑠衣…」
あいつは、瑠衣は黒髪に、メイクも昨日までのケバいあいつではなくて、ナチュラルになってて。
俺しか知らないはずの、綺麗な瑠衣になっていた。
「なによ、一樹。そんなじろじろ見て。」
「あっ、いや、別に。」
すると、教室のドアのところに走って登場した美優がいた。
「瑠衣?え!どうしたの〜?めっちゃ可愛いんですけど!!やっばーい!」
「木村、どうしたんだよ」
「渡辺、なに瑠衣見てデレデレしちゃってんの〜?」
「し、してねーよ!!」
あーあ。
こうなるのが嫌だった。
いままで、金髪でケバい化粧して、あいつを昔のあいつにはさせないようにしてた。
あいつは、黒髪にナチュラルな化粧するとくっそ綺麗になる。
あーあ。
瑠衣side
あたしがしたこと。
それは髪色をもどして、メイクもナチュラルにした。
なんでかって?
大学へ行って保健室の先生になること。
それを目指すのは中途半端じゃいやだし。
真面目になってやろうと思った。
それで学校へ来たらなぜか驚いたようにみんな見る。
もう、なによ。ブサイクとか思われてんだろーな。
美優も渡辺くんもびっくりしてたけど、一樹が1番びっくりしてた。
「ねえねえ、なんでイメチェンしたの〜?」
「進路考えて、決めたからもうそろそろ真面目にならないとなあって」
「すごーい!!てか、可愛すぎなんだけど」
「はあ?美優の方が可愛いって」
「あたしも、黒髪にしようかなあ」
「おい。」
前の席の一樹があたしの方を向いて、声をかけてきた。
「なに?」
「今の話し本当かよ」
「え?う、うんまあ。」
「どこ大だよ」
「いや、まだそこまで決めてなくて今日図書室に寄ってしらべようかなって」
「じゃあ、今日一緒に帰ろうぜ」
「え?」
「図書室で待ってろよ」
それだけ言うと、前を向いて寝始めた。
「ねえ、一樹どうしたんだろうね?」
美優は妙にニヤニヤしながらあたしに話しかけた。
「知らない。どうせお金ないから帰りに連れてかれてお金出させるんだよきっと」
「ふーん?」
「な、なに?」
「こーんなに可愛くなった瑠衣を独り占めしたいんじゃないかなあと思って」
「ち、違うよ。あたしたち幼なじみだし。」
「ふーん?」
美優は疑いの目をしてたけど、本当に幼なじみだ。
そのまま放課後になり、図書室で志望校を決めようと調べてたとき、隣に気配を感じた。
「一樹。」
練習終わりの一樹が、隣に座ってきた。
「よお。遅くなってわりい。」
「ううん。いま、調べてたから」
「決めたか?」
「うーん。相模大学ならあたしでも行けるかなって。」
「そこならお前勉強しなくてもいまの成績で行けんだろ。」
「えー。わかんないよ」
「お前さ、」
「ん?」
一樹は急に気まずそうな顔をした。
「東光大学行く気ねえか?」
「え?」
「東光大学なら、保健学部もあるし。」
「いや、なんで東光大?」
東光大学はあたしでも知ってる。
野球がすごく有名で、そこからプロ行く人もたくさんいる。
保健学部もあるけど、あそこは確かあたしたちの地元からは他県だ。
「いや、それは」
「うん」
「俺、東光大行こうと思ってんだよ。そこの監督から国体のときから誘われてる。それでお前も一緒に行かねーかなって。」
「え?」
「ほら、お前俺がいねーと無理だろ?だから、俺と一緒のとこ行くしかねーだろ?」
「はあ?なに言ってんの?あたし、一樹いなくても大丈夫だし」
「いや、そうじゃなくてさ。俺が、お前と行きてーんだよ」
「あたし、寮生活とか無理だよ」
「野球部員は寮生活になる。しかも他の寮生と違うところになる。だからお前、マネージャーやれ。」
「いや、無理無理。」
「そうすれば同じ、ところの寮生活だからなんかあれば俺がいるし。お前、スコアも書けるし、大丈夫だ」
「ふざけて言ってんの?」
「大真面目だバカやろう」
「え、いや、ママとパパに聞かなくちゃだし、まず東光大学頭いいし、あたし行けるかわかんないよ」
「勉強は俺が教えてやる。宗一さんにはもう俺から話した。許可をもらってるし、心配すんな。だから俺についてこい」
「ど、とうしよう」
「えー、いいじゃんついて行きなよ」
「だ、だって、おかしくない?どういう経緯でこうなるわけ?」
あたしは、あのあと返事はまだいいからと言われて久しぶりに2人で帰っていま美優に電話している。
「でも、告白されたわけじゃないんだから幼なじみとして一緒について行きなよ」
「そ、そうだよね。好きなわけじゃないんだよね。」
「ま、きちんと考えたら?」
「うん…」
「じゃあ、また明日ね?」
「うん、ごめん、ありがと」
電話を切ってから、あたしは無心で勉強した。
勉強して、3時間が経った頃、ふとあたしたちの家を見ると電気が付いていて。
「一樹いるのかな」
ん?
あたし今、なんて言った?
一樹に会いたいと思った?
自分おかしくなったのかな。
自分の言葉と心とは逆に体は動くもので。
無意識で、あたしたちの家に行った。
でも、ドアの前まで来たはいいけど今更どうすればいいかわからずとりあえずノックしてみた。
コンコン
「はい」
あ、一樹だ。
のそのそと覗いてみると一樹がベッドの上で携帯をいじってて顔だけあたしの方を向いていた。
「どうしたんだよノックなんかして(笑)」
「い、いや、ほ、ほら!一樹のことだからエッチな本とか読んでるんじゃないかと思って」
「は?お前、バカかよ。ここじゃ読まねーよ(笑)」
「な、なによそれ。ここじゃって自分の部屋では読んでるわけ?」
「そりゃ男だもん、エロ本くらい読むだろ」
「一樹の変態!!やっぱ帰る」
あたしは体をドアの方に向けると腕を強く引っ張られて、その瞬間あたしの体は引っ張られた衝撃で一樹がいるベッドの上に落ちた。
「な、なによ」
いまの体制。
そう、ものすごく恥ずかしい。
一樹はあたしの後ろにいて、一樹の足の間にあたしはいる。
腕はまだ握られたままで。
なんなんだこれは。
「まだ、ここにいろよ」
一樹はそのままの体制であたしに話しかける。
「最近、一樹おかしいよ?」
「なにがだよ」
「あたしもおかしい」
「なにが?」
「なんか、すごく心臓が苦しい」
「心臓病なんじゃね?」
「そうかも」
「それから?なにがおかしい?」
「一樹を見ると、心臓がドキドキする」
「それ、原因俺わかるわ」
「どうして?」
あたしが聞くと、その瞬間一樹はあたしを後ろから抱きしめた。
「一樹?どうしたの?」
「いま、苦しい?」
「苦しい」
「はは(笑)」
「なに、笑ってんの」
「お前、それ恋だよ」
「は?」
「だーかーらーお前、俺に恋してんの」
抱きしめられたまま言われたあたしは固まった。
「だろ?」
耳元で囁く一樹の声にドキドキして、抱きしめられてる腕や、髪に一樹の顔がくっついていることがとても恥ずかしいのに嬉しくて。
本当は前から気づいてた。
気づかないフリをしてた。
ただの幼なじみだって。
いまの関係が壊れるのがいやでいやでそれなら今のままでいいと。
「なあ、」
「な、なに」
「俺のこと、好き?」
「…」
「答えてくれないの?」
耳元で囁くから。
「ずるい」
「え?」
「一樹はずるいよ」
「なにがだよ(笑)」
「あたしの気持ちばっか聞いてくる」
「聞きてーんだもん」
あたしは一樹の腕を払って、あたしの体を一樹の方に向けた。
顔を見るのが恥ずかしくて。
そのまま、一樹の肩に頭を乗せた。
「あたし、一樹のこと昔から隣にいてただの変態野球バカかと思ってた」
あたしが話すと一樹は、自分の手をあたしの頭に乗せた。
「うん」
「でも、最近一樹が目の前にいると苦しくて。野球姿がかっこいいとか思えてきて。あたし頭おかしくなったのかなとか思って。」
「うん」
「でも、気づいちゃった」
「うん」
「あたし、す「好きだよ」」
「え?」
あたしはびっくりして、顔を上げて一樹の顔を見た。
一樹はいたって普通な表情で、さすがポーカーフェイスだなって思った。
「好きだよ。産まれた時からずっと」
「それ、冗談?」
「は?本当だし。俺はお前しか見て来なかったよ18年間。」
「嘘。」
「本当。」
「ご、ごめん」
「いいよ、いま俺のこと好きなら」
「好き、かも」
その瞬間、あたしを一樹は抱きしめた。
「もう一回」
あたしを強く抱きしめたまま、乱暴に言った。
「好きかも」
「もう一回」
「好き…かも」
「もう一回」
「好き」
ようやく好きの一言が言えると一樹は急に固まった。
「一樹?」
「勃った。」
「は?」
「勃ったんだけど。どうしてくれんの?」
あたしは意味がわかって抱きしめられてる腕を払った。
「な、なに言ってんの?」
「好きな女に好きって言われて、しかも抱きしめながら。しかも、ここベッド。そりゃ誰でも勃つだろ」
「へ、変態!!」
「うるせえな!仕方ねんだよ男は」
「ここにいたら食べられちゃいそうだからもう帰る!」
「えー、相手しろよ〜」
「変態!自分でどうにかしなさいよ!」
「今日も右手が俺の相手か」
「もういい!じゃあね!」
あたしは急いで、部屋を出て自分の家の部屋に戻った。
冷静になると、さっきのことが浮かんできて、赤面した。
や、やばい。
なんか勢いでいろんなこと言っちゃったよ。
ん?でも、気持ちは伝えたけどさ、付き合ってはないよね?
付き合おうって言われてないし。
…
ま、もう寝よう。
あたし、木村瑠衣。
ただいま、屋上にいます。
なぜかって?
それは、朝、学校にくると昼休み屋上に来てという隣のクラスの佐々木くんに呼び出されたからだ。
佐々木くんは、イケメンで、よく優しいって噂で聞く。
そんな人からの呼び出し。
美優は興奮してたけど、あたしはなんで呼び出されたのかしか思わなかった。
「瑠衣ちゃん」
後ろから声をかけられて振り向くと爽やかな佐々木くんが近づいてきた。
「遅れてごめん」
「ううん、平気。で、どうしたの?」
「いや、その、前から瑠衣ちゃんのことは知ってて、元気な子だなって思ってて、でも好きになったんだ瑠衣ちゃんのこと」
「え?」
「付き合ってくれない?」
「いや、その。ごめん、あたし好きな人いるの」
「相川?」
「え?」
「いや、よく2人の噂聞くからさ。幼なじみで仲良いって」
「いや、一樹は関係ないんだけど…」
「でも相手は瑠衣ちゃんのこと大好きだよね」
「そ、そんなことないよ」
「まあ、いいや。ごめん時間取らせて。」
「ううん、こちらこそ」
佐々木くんとは分かれて、教室に戻るとすぐに美優が寄ってきた。
「なんだったの〜?」
「好きって言われた」
「やっぱ〜?で、どうしたの?」
「断ったよ」
「えー、佐々木めっちゃかっこいいのに」
「まあ、あたしは興味ないよ」
「ふーん?あ!そういえはさっき1年の女の子に一樹も呼び出しくらってたよ」
「え?そうなの?」
「うん、あれは告白だなあ」
「まじかあ…」
「で、あんたたちはなにがあったのかな?」
「え?」
美優があたしの顔を見ながらニヤニヤしている。
「な、なにも?」
「言い逃れできると思ってんの〜?
朝から2人ともお互いの顔見て顔真っ赤じゃん」
「はあー…」
それから昨日あったことを美優に話すと目をキラキラさせた。
「よかったじゃーん!!やっとくっついたのかあ!美優嬉しすぎ!これで一樹のゲイ疑惑も晴れるわね」
「ゲイ?」
「そうそう、いくら可愛い女の子が告白してもなびかないからゲイなんじゃないかって言われてんのよ」
「そ、そうなんだ」
「いやー、よかったよかった!これで一樹にもようやく彼女が…」
ん?
「待って、彼女じゃないよ?」
「え、なんでよ」
「付き合ってって言われてない」
「あ、確かに」
「うん」
「じゃあ、いいこと考えた!いま呼び出されてるから告白現場いこ」
「え、なんでよ」
「どういう答えすんのか気になるじゃん!!」
そう言うと美優はあたしの答えを聞かずあたしの手を握って裏庭にいるらしい2人のもとへ向かった。
花壇に隠れると、2人の姿が見えた。
「あ!いたいた!」
「う、うん」
それにしても距離が近い。
これじゃ2人の声が丸聞こえだ。
「私、相川先輩のこと好きなんです」
「あー…ありがとう」
「付き合ってもらえませんか?」
言ったー!!
1年の女の子は恥ずかしそうに言った。
「ごめん。」
「え?」
「俺、付き合ってるやついるんだ」
「え、いるんですか?」
「うん。俺、そいつしか好きになったことねえんだ。多分これからも。だからごめん。」
「木村瑠衣さん、ですか?」
「うん。」
一樹の言葉を聞いてあたしは最低だと思った。
1年の女の子が振られて、あたしへの言葉を聞いて嬉しいと思ってしまった。