「お前さあ、話し聞いてた?」
「ううん、ぜーんぜん聞いてない」
「えー、なに〜?美優にも聞かせてよ〜」
「美優には関係ねーよ」
「んまあ、いーよ、いこ美優!ばいばーい一樹」
あたしは、莉子ちゃんの告白を言いふらさないと決めた。
あたしも自分から告白できるくらいの恋したいなあ。
あたしは、放課後美優と遊んで10時超えてて、子供部屋にそのまま帰った。
ガチャ
「あー、つかれたー」
言いながら部屋に入ると、和也がいた。
「おー、瑠衣ねえおかえり」
「ただいま〜つかれたー」
あたしはそのままベッドにダイブした
「あれ?一樹は?」
あたしが言うと、和也はなんだか気まずそうに頭をかきながらあたしに聞いてきた。
「瑠衣ねえ、なんかした?兄貴今日すんげえ、機嫌悪くてさあ。部活始まってからも俺に八つ当たりたくさんしてきて大変だったんだよ」
おっと。
え、なんかしたっけ?
「うーん…」
「心当たりない?」
えー?
まじでなんかしたっけ?
「わかんないや〜…」
「そっか。なんなんだろうな。でも兄貴は瑠衣ねえ以外のことであんま怒らねえからなあ…」
んん?
ちょっと待って。
朝から巻き戻そう。
朝イチの電車から幸希と仲良くなって〜
体育はいつも通りメイク怒られながら受けたし、授業は美優と恋バナしながら受けたし、放課後?
うっわ。
あたし、見たじゃん。
あたしが急に慌て始めたのが和也が気づいたのかあたしを見た。
「瑠衣ねえ?」
「ごめん、和也。あたしだ。」
「え?まじ?」
「うわー。忘れてた〜。放課後、ゴミ捨て行こうとしたら、ごみ捨て場で一樹が莉子ちゃんて子に告白されてたの!それを覗いてないんだけど、覗いてるみたいになっちゃって…」
「うわ、まじか」
「それで、莉子ちゃんのこと振ってたんだけどね?なんか、”ごめん、俺、好きなやついんだよね”って言ってて、それあたし聞いちゃって、一樹にバレちゃったの!」
あたしが話してる間、和也はだんだん顔をしかめていた。
「瑠衣ねえ、それは兄貴怒るよ」
「えーなんで?勝手に聞いたのは悪いと思うよ?でもわざとじゃないし」
「まあ、そうだけどさあ…」
「だいたい、あんな可愛い子に告白されてんのになんで断るかな?莉子ちゃんって学年で1番可愛いって言われてんだよ?あんなチャンス一樹には2度と回ってこないよ?」
「そういう問題じゃないんだと思うけど…」
「ん?なに?」
ガチャ
和也とあたしが話してた時、ドアが開いた。
「兄貴。」
一樹は部屋に入るなり、無言で自分の勉強机の椅子に座った。
勉強机は、左から夢、和也、あたし、一樹って並んでるからいま、あたしは自分の机の椅子に座っていて、嫌でも一樹と隣になった。
こちらを見ようともしない一樹にあたしはカチンときた。
「なに?なんでそんな怒ってるわけ?聞いてたのは悪いと思う。ごめん。でもそんな怒ることなくない?」
あたしは結構強めに言った。
あたしが言うと、一樹は持っていたペンを止めてこちらをギロリと睨んだ。
「お前、本当ブスだよな」
「は?」
「化粧も濃すぎてバケモノみたいだし、性格くそわりいし、おまけにめたくそ気が強い。そりゃ、前田の方が何倍も可愛いよな。」
なんだ、こいつ。
「なにその言い方!!一樹だって、かっこよくないくせに野球が出来るからって少しモテちゃってさ。鼻の下伸ばしてデレデレしてんじゃねーよ」
あたしは気づいたら怒鳴ってた。
和也があたしたちをなだめようとしてたけどそんなの目にも入らなくて。
「一樹なんかだいっきらい。」
この一言で、全てが終わる。
「勝手にしろよ!!人の気持ちも考えねーで。」
それだけ言うと一樹は乱暴にドアを閉めて出て行った。
なんだよ、なんだよなんだよ。
そりゃ莉子ちゃんの方が可愛いけどさ!
あんなボロクソ言わなくてよくない?
「瑠衣ねえ、」
「ん?」
「まだ、わかってねえの?」
和也にそう言われたけど、ぜんぜんわからなかった。
「なにが?」
「ううん、なんでもない。俺ももう今日は自分家帰るわ」
和也も出て行ってしまった。
2人してなんだよ。
あたしは、普通に仲良くしたいのに
いつも上手くいかない。
自分でいうのもなんだけど、あたしと一樹は似てると思う。
お互い気が強い。
お互い頑固。
お互い負けず嫌い。
お互い言いたいことはなにも言えない。
こんなあたしたちの高校3年の6月だった。
もうそろ暑い暑い夏がやってくる。
一樹と喧嘩してから1週間。
あたしたちにしては珍しく、まだ口を聞いてなかった。
席が前後なのに、一樹は、プリントを配るときはわざわざあたしの隣にいる美優を使って渡してくる。
真美さんがお弁当を忘れるときはいつもならあたしの役目なのに、いつの間にかこの1週間は夢になってる。
おかしくない?
そんな?
一樹の考えてることがぜんぜんわからない。
お昼前の授業はとてつもなく面倒くさい。
あたしが外をぼんやり眺めてると携帯が鳴った。
ブーッブーッブーッ
あ、LINEだ。
『俺!幸希!届いてるかな〜?』
え、なんで?
なんで幸希からLINE?
『わかるけど、なんでLINE?』
あたしが送るとすぐ既読がついた。
『ほら、金塚覚えてるだろ?瑠衣ちゃんと同じ中学だった。そいつに教えてもらった』
なーんだ。そういうことか。
『おっけー牧場』
『いきなりなんだけどさー、放課後デートしない?』
「デート!!?」
あたしは幸希からのLINEでびっくりして、思わず叫んでしまった。
すると、先生もクラスメイトも一樹以外は全員あたしを見てた。
「こーら、木村ー!そんなにデートしたいのか〜?」
先生がそんなこと言うからクラスメイトはほとんど爆笑して、あたしは笑い者になった。
「瑠衣、デートしたいの〜?(笑)」
隣にいる美優が真顔でそんなこと言ってくるから
「違うよ、誘われたの!!」
「瑠衣にもようやく春が来たの?美優、嬉しーい」
「違う、違う。」
「で、誰に誘われたの〜?」
「あー、なんか、電車でいつも見かけてた人で、話す機会がこの間あって、そこから仲良くなってって感じ?」
「名前は〜?」
「高山 幸希。桜ヶ丘学園の。」
あたしがその名前を出すと、美優が驚いた顔をした。
「瑠衣、高山幸希と友達なの?」
「え、う、うん」
「ねーねー、聞いてよ。渡辺!」
「あ?」
美優の前の席の、渡辺 透くん。
透くんは、一樹の野球部の友達で、いつも一緒にいる。
「瑠衣、桜ヶ丘学園の高山幸希と友達なんだって!!しかも、LINEしてるんだよ〜!」
美優が、透くんに言うと、寝ぼけてた透くんもびっくりした顔であたしを見た。
「それまじか?」
「え、う、うん。てかなに?幸希って有名なの?」
「瑠衣知らないの〜?高山幸希って、今年の最優秀注目選手だよ〜?しかもイケメンじゃん?だからすんごい女子から人気があって、追っかけとか、ファンクラブまであるみたい。でも、彼女は作ったことなくて、告白されても”俺、俺に興味がない子がいいんだ”とか言って断るらしいし?女の子とも喋りかけられる以外は話さないし、連絡先も教えないっていう強敵なんだよ〜?」
「うえ?それ本当?普通に友達なんだけど」
「お前、すげーな!!男の俺でもあれはかっけーと思うぞ?一樹の次に。」
それまで話に入って来なかった一樹がこちらを向いて、透くんを睨んだ。
「なんだよ、睨むなよこえーから。せっかくのイケメンが台無しだぞ。」
「うっせえよ。」
透くんに言ったあと、あたしの方を見て、冷めた目をしながらこう言った。
「お前、遊ばれてんじゃね?お前みたいなブス相手なんかされねーよせいぜい泣かされて終わるだけだぜ」
一樹はそれだけ言って、前を向いた。
「は?違いますー!!一樹と違って優しいし?紳士だし?はっ!ぜんぜん違うわ〜」
「てんめっ」
一樹がまたあたしの方を振り返ってなんか言おうとした時、
「はーい、ストップー!!」
美優が止めてきた。
「まあまあ、瑠衣は、きちんとデートに行って、楽しんでくれば〜?」
「そうする〜」
一樹を睨みながら、携帯をピコピコといじって幸希に返信した。
『いいよ』
するとまたすぐに返信がきた。
『良かったあ〜断られるかと思った』
『じゃあ、18時に瑠衣ちゃんの学校の最寄駅の改札前で待ってるね』
ふーんだ!!
一樹になんか、関係ないもんねーだ!
放課後になり、あたしは18時に幸希が来るまで学校で勉強しながら暇つぶししてた。
1人の放課後の教室って静かだよなあ
音楽を聴きながら教室で1人で勉強するのスキ。
あたしは結構、人混みが嫌いだから静かなところとかが好きだ。
昔は、あたしが人混みが嫌いなのを知ってた一樹はよく遊ぶ場所を近くの賑やかな公園じゃなくて、あまり人が来ない少し遠い公園にわざわざ連れてってくれた。
そんな昔のことを思い出してると、
ガタンッ
イヤホンをしてるのに聞こえた大きな音を聞いて後ろを振り返ると、廊下で一樹がたくさん持ってた野球道具を落としてた。
ここは無視するべきか?
助けるべき?
でもいま、避けられてるんだよ?
行ってもいいの?
ああー、なんでこんなアイツのために考えてんだろ。
助けよ。
あたしは教室のドアを開けて落ちてた野球ボールを拾った。
「瑠衣…」
あたしの存在に気づいた一樹は目を見開いてこちらを見た。
「はい、ボール」
ボールを拾って一樹に差し出すと、不機嫌な顔をした。
「なんでここいんだよ」
「え、だめ?」
「別に。でも教室電気付いてねーし、幽霊かと思った」
「こんな美少女が教室から出てきて嬉しかったっしょ?」
「バカじゃねーの?全然」
「なーんだ!で、一樹なにしてんの?」
「今日はグランド使えねーから筋トレしてもう終わりなんだよ」
「あ、そっか今日火曜だもんね」
火曜はサッカー部がグランド貸し切りだから野球部は使えないんだ。
他にも落ちてたものを手伝いながら喧嘩してたのが嘘のように前みたいに話ができていた。
「あのさ、」
「ん?」
「お前、高山のこと好きなわけ?」
一樹が拾う手を止めてあたしを真っ直ぐ見ながら言った。
「さあ?」
「ふーん」
「なんでよ?」
「お前にはあいつと付き合ってほしくないから」
「はあ〜?あたし、遊ばれるんでしょ?そんな心配する必要ないじゃん」
「悪かったよ、うそだよ」
「いいよ、いいよ、あたし莉子ちゃんみたいに女の子っぽくないし」
「俺には、お前の方が前田より可愛いぞ」
一樹は、平気で真面目な顔で言うんだ。
「な、なに言ってんの?頭おかしーんじゃないの?」
「かもな」
そう言って微笑む一樹を不覚にもかっこいいと感じてしまった。
本当にこいつは…
「一樹はずるいよ」
「え?」
「平気で真面目な顔して言ったり、ふざけたりあたしのこと振り回しすぎでしょ」
「俺の方がお前に振り回されてるよ」
そういう一樹は切ない顔をしていて、なぜだかあたしは胸が苦しくなった。
「あ!今何時?」
「18時5分」
「やっば!!幸希と約束してんだった!」
あたしは急いで準備してカバンを取って教室を出ようとした時、あたしの腕を一樹が掴んだ。
「ん?」
あたしが問いかけても一樹はなかなか離さない。
「どうしたの?」
「俺も行く。」
「え?いくの?」
「だめかよ」
「いや、いいけど、初対面だよね?大丈夫?」
「俺がいいっつってんだよ。これ片付けてくるから待ってろ」
「あ、うん。じゃあ門の前で待ってるね」
なんなんだ?全く。
門の前にはすでに人影があって、携帯をいじる彼を、身長も大きくて、顔もかっこいいから帰る女子高生にチラチラ見られてた。
目立ってるよ…
あたしを見ると幸希は笑顔になって手をあげた。
「瑠衣ちゃん」
「遅れてごめんね」
「いや、大丈夫だよじゃあ行こうか」
「あ、あのさ…」
「ん?いや、その…」
「俺も行くから」
後ろから聞き覚えある声が聞こえて振り向くとエナメルを持って、若干不機嫌そうな一樹がいた。
「あー。相川一樹くんだね」
幸希は笑顔で一樹に挨拶していて。
「なんで、一樹のこと知ってんの?初対面だよね?」
「ううん、俺と相川くんは国体でも同じだったからね」
「え、そうなの?なーんだ」
「で、なんで相川くんがいるのかな?」
「あ、なんか一樹も一緒に行きたいらしい」
「あー…なるほどね〜…いいよ、ちょうどお腹空いてたし、ファミレス行こうか」
「はーい!!」
そうして、あたしと一樹と幸希という謎のメンバーの食事会が始まった。
一樹side
俺には、生まれた時からの幼なじみがいる。
そいつはガサツで、化粧もケバいし、金髪だし、言葉遣いも荒いし、女っぽさは皆無に近い。
でも、すっぴんが可愛いこととか、寝顔が可愛いこととか、金髪だけど、黒髪があいつは1番似合うことを知ってるのは俺だけ。
気が最高に強いのに体は折れそうなくらい華奢で、泣き虫で、寂しがりや。
友だちとか家族とかがいじめられたりバカにされたりしたら自分よりどうしたって勝てない相手でも立ち向かってく。
そういうやつなんだ。
俺はそいつに、18年間片想いをしてる。
木村瑠衣。
いつ好きになったかなんて、そんなん知らね。
俺でも不思議だ。
でも、隣にいるのが当たり前で、あいつは俺にとっては最初で最後の女なんだ。
俺は不器用だから、素直にあいつに優しくできないし、あいつ次第で俺の気分は変わる。
前田に告られたとき、あいつに聞かれてて、あいつはなんとも思わなかった。
そんなのわかってる。あいつが俺のことを男としてみてないことなんて。
でも、苦しかった。いやだったんだ。どうしても。
ヤキモチを妬いて欲しかったのかもしれない。
それなのにあいつは平気で
”彼女作らないの?”
なんて言うから、怒ったんだ。
瑠衣が、欲しくてたまらなくて、ふたりきりの子供部屋なんて俺にとっては最高に触れたくて手を伸ばしそうになる衝動を抑える戦いをしている。
俺も野球部で真面目に見えるかもしれねーけど、ただの18の男だ。
好きな女を前にして、触れたいと思う気持ちは当たり前だ。
それなのに今あいつは、目の前の高山と楽しそうな笑顔で話してる。
ふざけんな。
俺は18年間も想ってきたんだぞ?
こんな奴にとられたくはない。
いつだって告白するタイミングなんてあった。
でもまだ出来ないんだ。
瑠衣は覚えてないかもしれねーけど、俺たちは小さい頃1つの約束をしている。
突然だけど、
俺の母さんは少しおかしい。
いや、正確に言うと咲さん(瑠衣の母さん)もおかしい。
2人とも高校時代の純愛で結婚している。
俺の父さんと宗一さん。
それはすげーと思う。
高校時代からってことはもう10年以上だろ?純愛ってやつ?
憧れてはいる。
でもタッチに憧れすぎて、普通ほんとに子供部屋作るか?
しかも、もう俺18だぞ?
漫画みたいに爽やかな感じじゃねーぞ?
よく達也と和也は南に手を出さなかったと思う。
俺がおかしいんじゃねーよ?
健全だぜ?
ああ、俺、いつまで片思いすればいいんだよ。
いつだって手を伸ばせると思ってた。
でもちげーんだよな。
俺には果たさなきゃいけない約束がある。
それまでは瑠衣を、この歯がゆい関係で隣で見てなくちゃいけないんだ。
瑠衣side
「…」
なんなんだ、この空気は。
あたし、木村瑠衣はただいま微妙な空気の中にいます。
その状況とは…
ファミレスに入ったあたしたちだけど、座る席を巡ってまず一樹が不機嫌。
あたしはなんのためらいもなく無意識に幸希の隣に座った。
それで、今、不機嫌な顔をした一樹とニコニコ笑顔の幸希が見つめあってる。
「あ、あの〜…」
「あ”?」
「なんで一樹そんな怒ってんの?」
「別に怒ってねーよ」
ふんっと一樹は窓の外を見てしまった。
「ヤキモチかな〜?(笑)」
「え?」
「ほら、瑠衣ちゃんが俺の隣に座ったからヤキモチ妬いてるんだよ、相川くんは(笑)」
幸希はあたしに笑いながら言うと一樹が不機嫌な顔をしてこっちを見た。
「あ?んなわけねーだろ。バカじゃねーの。」
「ほら、思いっきり怒ってるじゃん(笑)」
「別に怒ってねーよ」
「じゃあ、瑠衣ちゃんもらっていい?」
「は?」
あたしはびっくりして、思わず親父みたいな声が出た。
一樹もさすがにびっくりしたみたいで驚いた顔をした。
「聞こえなかった?瑠衣ちゃんのこと俺がもらっていい?」
「え、ちょっ、ちょっと待って。え?なに言ってんの?」
「ん?瑠衣ちゃんのことほしいなーって思って」
そう言って、普通に笑顔のままの幸希。
「は?べ、別に俺、関係ねーし?どうぞどうぞ」
「じゃあ、遠慮なく。あ、言っておくけど、後悔しても知らないよ?」
いやいや、おかしいだろ。
どんな状況なんだよ全く。