「昔はいつでも俺に『おいしいご飯おごって』とかなんとか、まとわりついてたくせに、就職した途端寄り付こうともしなくなって、かわいくねーんだよ」
ふん、と吐き捨てるような声に、思わず顔を逸らした。
「どうせ、かわいくないもん」
「だな。全然、かわいくねえ」
「だったら、放っておいてよ。翔平君の周りのかわいくて綺麗な女の人を思う存分かわいがって、なんでもおごってあげればいいじゃない。こんなチョコレートを全種類買うような私とは違う、オトナの女」
そのとき、レジを打つ男の子が私たちに面倒くさそうな視線を投げてきた。
「一緒に打っちゃっていいんですかー?」
不機嫌な気持ちを露わにして聞いてくる。
「ああ、一緒でいいから」
「だめ、だめです。自分で払います」
翔平君の言葉を遮るように反論すると、さらに不機嫌な顔が向けられる。
「どっちでもいいんですけど、痴話ゲンカは外でやってください。後ろにお客さん並んでるんですよね」
バイトくんは、私の後ろに並んでいるお客さんたちに視線を投げる。
はっと気づいて後ろを向くと、何人かのお客さんがレジの順番を待って並んでいた。
「あ、すみません」
慌てて頭を下げていると、たちまちレジ打ちは終わったようで、翔平君がお金を払っていた。
私が払うからと再び口にしようとしたけれど、相変わらず不機嫌そうなバイトくんにチラリと強い視線を投げられて、思わず口を閉じた。
「帰るぞ」
私に袋を渡しながら、翔平君はお店の外に出た。