それでも、幾つかの物件の中から選んだのが、今住んでいるマンションだ。

最終的な購入の決め手となったのが、翔平君と同じ生活圏にあるということだ。

翔平君には結婚を考えている特別な女性がいると知って、今度こそ本当に諦めなければと思う気持ちに嘘はないけれど、ずっと恋焦がれてきた人をそう簡単に切り離すことはできなくて。

離れて楽になりたい気持ちと、つらい思いをするとしても、近くにいたいという気持ちがせめぎ合い、私の気持ちを大きく揺らした。

結局、私は弱いのだ。

現実を考えればそんなこと意味はないとわかっているのに、好きだから、偶然会うことを期待して翔平君の生活圏内にあるマンションを買って越してきたのだ。

だから、こうしてコンビニで偶然会うことを期待していなかったとは言えない。

ううん、正直なところ、かなり期待していた。

「あ、これも一緒にレジ打って」

ふと気づくと、翔平君は私の後ろに並び、私のカゴを指さしていた。

「俺が払うから、会計は一緒で袋は別で」

レジを打つ男の子にそう言っているのを聞いて、私は慌ててそれを遮った。

「あの、私のカゴの商品は私が払うので、会計は別でお願いします」

「うるせえんだよ。まだまだ稼ぎも少ないくせに、黙っておごられてろ」

翔平くんは、ぞくっとするような低い声でそう言った。