力なくつぶやいた私の言葉は翔平君の耳に届いたのかどうかわからない。

きっと、聞こえていたとしても無視しているんだろう。

翔平君に抱き込まれ混乱する私とは逆に、タクシーは私の家へと向かって順調に走っている。

一体これからどうなるんだろう。

翔平君が結婚すると聞いて以来、恋心を捨てようと作り上げた壁が一気に崩れていくようで、心もとない。

長く抱えていた想いを封印しようとジタバタし、ようやくお見合いというひとつの区切りを見つけたというのにこの状況。

翔平君の体に腕を回して縋りつきたい、抱きしめたい。

ここがタクシーの中ではなくて、誰もいないふたりきりの場所だったらそうしていたのかもしれない。

だけど、私以外の人と結婚すると決まっている翔平君に、そんなことはやっぱりできないくて、じっと我慢する。

翔平君が好んでつける香水の香りに目の奥が熱くなる。

そのとき、見慣れた景色が車窓を流れていることに気づいた。

私の家に近づいているとわかり、翔平君から逃げられないという苦しみが、私を縛り付ける。

諦めようと頑張っているのに、どうして気持ちは思うようにならないんだろう。

私は瞳を閉じて、涙をこらえた。