「別府さんと俺の上司が知り合いなんだよ。何年か前に上司と飲みに行ったらその店に別府さんがいて、それ以来何かと世話になってるんだ」

「そんなこと、初めて聞いた。今日も私が煮詰まってるときにシュークリームを差し入れてくれて一緒に食べたけど」

「へえ。相変わらず萌はシュークリームが好きなんだな」

「うん。翔平君もよく買ってきてくれたよね。あ、『ルイルイ』に開店前から一緒に並んで買ったこともあったね」

「太るからもう買ってくるなって言われてやめたけどな。萌が高校の頃か……あの頃からずっと同じ髪形だったのに、思い切ったな」

「え?」

「細い首が、綺麗だな」

背中に置かれていた翔平君の手が、すっと私の首筋を撫でた。

「な、なに……っ」

「今まで髪で隠してたんだな」

焦る私に構うことなく、翔平くんは何度も手の甲で私の首や耳に触れる。

それに反応するかのように私の心臓は大きく跳ねて息苦しくなる。

「翔平君、ちょっとやめて」

歩みを止め、翔平君の手をそっと拒むと、その手は再び私の腰に回された。

「メイクがいつもよりも派手に見えるのは、ライトアップのせいじゃないよな」

翔平君の顔が私の目の前にぐっと近づき、確認するように問いかける。

面白がっているように聞こえるのは何故だろう。

髪形のことといいメイクのことといい、どこか嬉しそうにも見える。

「髪が茶色になるだけで、大人っぽくなったな。ルージュもいつもより濃い赤だし」

翔平君の指先が、少しの躊躇もなく私の唇に触れた。

あっという間のその仕草に抵抗することもできず、私は驚いたままその指先が離れていくのを見ていた。

「どんな萌もかわいいけど、今の萌はどちらかというと綺麗だな」

「きれい……?」

「ああ。アマザンでエステをしてきたんだろう? メイクもプロにしてもらって、モデルのようだな」

大人になってから、ここまであからさまに私を誉める翔平君を見たのは初めてだ。