実家を出てひとり暮らしをする覚悟をもっての採用試験だったけど、私には翔平君が一番大切なんだと、改めて気づかされた。

いい加減、長すぎる初恋に区切りをつけて翔平君から離れる絶好の機会だと思っていたというのに。

ひとまずその機会は後回しにして、翔平君の近くにいることを選んだ。

こじらせた初恋を、いつまで抱えていればいいのだろうかと悩みながらも、目の前で傷ついている翔平君のそばにいたかった。

その後翔平君が退院し、仕事にも戻り日常生活が再会された頃。

私は今働いている「別府デザイン事務所」との縁があり、採用された。

翔平君が働いている事務所も魅力的だったけれど、私には規模が大きすぎて二の足を踏んでしまった。

マスコミに名前や顔が取り上げられるデザイナーが多く在籍してい事務所に私は向かないと思ったことと、別府所長の温かい人柄に魅かれたことが大きな理由だ。

「向いてるかどうかは入ってみなきゃわかんないだろ」

翔平君に背中を押されながら歩いていると、目の前には翔平君の顔があった。

いつも通り整いすぎたその顔、嫌味なほどだ。

私は、過去に思いを巡らせていた気持ちを切り替えた。

「それはそうなんだけど、私には翔平君みたいにばりばり仕事ができるとは今でも思えないし」

「何言ってるんだよ、別府さんに鍛えられていい仕事してるだろ? あのラベルの仕事だって評判いいし」

「え? 翔平君、別府所長のことを知ってるの?」

翔平くんの口から別府所長の名前が出たことに驚いた。