雨が降って足元が滑りやすかったのか、翔平君の後ろの人が足を滑らせて階段を転げ落ち、その巻き添えとなったのだ。

翔平君は、階段から落ちる途中で近くにいた人の傘の先端によって顎から鎖骨にかけて傷を負った。

出血量が多く、救急車で病院に運ばれたときの翔平君の服は真っ赤だったと聞いている。

芸能界で仕事をしている両親へ連絡することに抵抗を感じた翔平君は、兄さんに連絡をした。

ちょうどそのとき兄さんの側にいた私も事故のことを知り、慌てて病院に駆けつけたけれど。

出血のひどさに比べれば軽傷だったとはいえ、何針も縫い、高熱が出たせいで二日ほど入院することとなり、その間のお世話を私が引き受けた。

当時噂になっていた三崎紗和さんにお願いすればいいのにと思ったけれど、何故か翔平君は私に世話をしろと言い張り、二日間甘えたい放題だった。

傷口が痛むのか体を動かすのも大変そうで、翔平君に言われるまま食事のお世話はもちろん着替えさえ手伝わされた。

翔平君の素肌を見るのは本当に恥ずかしかったけれど、翔平君に色目を使う看護師さんにその仕事を譲るのが嫌で、照れながらもパジャマを脱がせたり、着せたり。

今思い出しても恥ずかしいけれど、二度と経験することのないいい思い出だ。

けれど、私がそばにいないと途端に不機嫌になり拗ねてしまう翔平君の幼さに驚き、自分が翔平君に必要とされているのではないかと心は弾んだ。

そのときの翔平君の気持ちを聞いたことはないけれど、思うように体を動かせないことへのストレスのせいでわがまま王子様になったんだろうと思う。