細身のスーツをきっちりと着こなす姿は格好良くて、普段のカジュアルな雰囲気と違いどきりとした。

翔平君は事務所でデザインに集中することが多く、重要な打ち合わせでもない限り外出もしないらしい。

そのせいか、普段からそれほど堅苦しい服装はしないのに、何故か今はスーツ姿。

翔平君を見てドキドキするのには慣れているけれど、ネクタイ姿を見るのは久しぶりで、いつも以上に緊張する。

すれ違う女性たちが振り返り、翔平君を見つめているのも見慣れた光景だ。

私もこれまで何度、こうして翔平君に見惚れただろう。

街中で会う機会は滅多になかったけれど、その数少ない中で、恋人と寄り添い歩いている姿を何度か見たことがある。

私と違って長身で華やかな見た目の女性が多かったし、どの女性も翔平君が大好きだという視線を惜しげもなく送っていた。

誰に対してもクールな翔平君は、そんな彼女たちに対しても冷静な様子を崩すことはなかったけれど、彼女たちが腕を組んだり必要以上に近い距離で話すのを拒む様子もなかった。

きっと、翔平君も彼女たちのことが大切だったんだろう。

時折荒くなる口調は誤解されやすいけれど、翔平君の言葉には相手を思いやる温かさがある。

たとえ短い付き合いを繰り返していたとしても、付き合う恋人には愛情を注いでいたはずだ。

それでも翔平君が結婚を決めたのは三崎紗和さんなのだ。

彼女のことは、誰よりも大切にしているに違いない。