『翔平君がオレンジジュースが飲みたいって言うから買いにきたけど、届かないの』

私は頬の涙をハンカチでふいてくれる美乃里さんにそう言って、握りしめていた硬貨を美乃里さんに差し出した。

『翔平君、熱があるから苦しそうなの。だから、早くオレンジジュースを飲ませてあげたいけど届かないの』

ひくひくとのどを震わせ、美乃里さんにオレンジジュースを買ってくれるようお願いしながらも、自分で買うことができないことが悔しくて、なかなか涙は止まらなかった。

大好きな翔平君の役に立てると思っていたのに、ジュースひとつ買うことができないなんて。

早く大きくなりたいと切実に願った。

そして、どうして自動販売機は子どもに優しくないんだろうと何度も心の中で繰り返した。

そんな私の気持ちを理解してくれたのか、美乃里さんは私が差し出した硬貨を受け取らず、そっと私を抱き上げてくれた。

『翔平は小さな頃からこのオレンジジュースが大好きなのよ。萌ちゃんが買ったものならいつも以上においしいはずだから、萌ちゃんが買ってくれる?』

美乃里さんに抱き上げられた私は、目の前に現れた硬貨の投入口に気づき、急いで硬貨を落とした。

そして、お目当てのジュースのボタンを力いっぱい押して、オレンジジュースが落ちるのをわくわくしながら待った。

ほんの数秒、けれど、私にとってはそれよりも長く感じられた時間が過ぎ。

ガタンという音が聞こえたと同時に美乃里さんと顔を見合わせてにっこりと笑った。

『私もすぐに行くから、萌ちゃんは先に帰って翔平にジュースを飲ませてくれる?』

美乃里さんの言葉に大きく頷いて、私は急いで家に戻った。

翔平君はきっと喜んでくれる、そして私を誉めてくれる。

その期待通り、私は翔平君に頭を撫でてもらうことができ、心底満足した。

おいしそうにオレンジジュースを飲む翔平君を見て、再びどきりとしてしまったことを必死で隠したっけ。

その後、どうして自動販売機は子どもに優しくないんだろうと、頭をひねった。

硬貨の投入口も、商品を選んで押すボタンも子どもの身長ではなかなか届かない。

ジュースは子どもの飲み物なのに、それっておかしい。