翔平君のご両親は、夜明け前の早い時刻に家を出て、ドラマの撮影に向かった。

ふたりは別々の事務所に所属しているけれど、長いキャリアがものをいうのかそれぞれのマネージャーがふたりの休日を合わせたり、映画やドラマなどの大きな仕事を受ける場合にも相互の予定を確認し合っているらしい。

夫婦として、そして家族としての時間を犠牲にして積み上げてきたキャリアに後悔はないにしても、多少の無理を通せるポジションに就いた今、家族との時間も楽しみたいと、そう言っていた。

お酒が入ったせいで饒舌になった人気俳優ふたり。

口から出るのは翔平君のことばかりで、まるで今も翔平君は5歳の幼稚園児のような錯覚を覚えた。

『翔平が高校生になって、いよいよ難しいお年頃で。どうやって反抗期に対処すればいいか悩んだけど、樹くんと出会って、萌ちゃんというかわいい女の子に懐いてもらえて。白石家の一員のように育ててもらったから、まっすぐに育ったのよね。おまけに国内トップの大学に進学しちゃうんだから、親はなくとも子は育つって実感して寂しかったな』

化粧を落とし、母親の顔に戻っていた美乃里さんの言葉は切なかった。

翔平君の成長を間近で見られなかった悔しさをたたえたその表情を見ていると、私が翔平君と出会った頃を思い出した。

当時、兄さんは国内でもその名前を知る人が多い超有名進学校に入学したばかりで、勉強とクラブ活動に忙しい毎日を送っていた。

同じクラスの同級生として翔平君を我が家へ連れて来たのもその頃で、同時に私の翔平君への恋心も生まれた。

ご両親の職業ゆえにひとりで過ごすことが多い翔平君は我が家で夕食を食べ、週末には泊まることも多かった。

そのことを知った翔平君のご両親は、気を遣って時々我が家を訪ねてきた。

テレビでよく見る綺麗な女性と格好いい男性を目の前にして、かなり興奮したのを覚えている。

父さんと母さんも同様で、我が家の居間に有名俳優がいることが信じられず、『夢じゃないよね』と何度も確認し合っていたことも、今では笑い話のひとつとなっている。