中学2年の水咲瀬那(ミサキセナ)は10月下旬の空気に少し肩を震わせた。
この季節、廊下は少し寒い。
そろそろブレザー着ようかな、と通学カバンから紺のブレザーを引っ張り出す。
白のセーターの上からブレザーを羽織ると、体が少し暖かくなる。
前のボタンは開けたままで、四階の音楽室へと向かう。
鏑木中学校は市内ではやや大きい学校だ。
鏑木町は千葉県の海沿いにある町なので、10月あたりにはもう肌寒い。
音楽室にたどり着き、ふぅ、と息を吐く。
少し重い扉を両手で押す。
その瞬間、
「せーーなーーっ!!」
という大声とともにひとつの影が飛び込んできた。
「うっ、わぁ」
すれすれの所で避ける瀬那。
その影はドアにどんっ、と派手な音をたててぶつかった。