「まだ付き合ってない頃かな。
ベランダで飲んでる時に、拓哉が話してくれたんだよ。

今日、車椅子のお客さんが来たんだけど、出入口に階段しかないから、皆で持ち上げたんだって。

その話を聞いて、どこのレストランに行こうか選ぶ以前に、レストランに行ってもいいのかを悩む人がいるのかもしれないって思ったの。
それが、この新店舗においては子育て中のママさん達かなって。
女性をターゲットにするなら、その層は外せないでしょ?」


拓哉がいなければ、この形にはなっていなかったはず。
調査をした上でお客さんの要望を取り入れたとはいえ、そのきっかけを作ってくれたのは拓哉なんだ。


「そう言えばそんな話したな」


「うん。

…だから、ありがとね」


もう肌寒い季節だけど、心は火が灯ったように温かい。
でも、お礼を言い合っていることが気恥ずかしくなって、2人で目が合うとクスッと笑ってしまう。


すっ、と拓哉が体を移動させて、隙間がないくらいにくっつく。


「レストランが無事にオープンできたら、2人とも少し余裕ができるだろ?
そしたら、どこか出掛けよう」


「デートってこと?
いいね!」


そういえば、いつも2人で過ごすのは夜のアパートで、デートらしいデートなんてしたことがなかった。


たまには恋人っぽいこともしてみたい。


どこに行こうかと色々と思いを巡らせる。


どこに行っても、拓哉となら最高に楽しいだろうな。