「さっき、大雅さんの名前を出したのは、待たせたら駄目だって意味なんだよ?」


「……。」



「暁が嫉妬する必要なんかなかったのに…。」



背伸びした莉茉が俺の首に腕を回して引き寄せる。



「莉茉?」


「……暁、大好き。」



俺の唇に触れるだけのキスを莉茉が落とした。



「っ、早く着替えなきゃ。」



顔を赤らめた莉茉がクローゼットに素早く向き直る。




離れた体温に俺の中で、喪失感が募っていく。


「…莉茉。」



華奢な莉茉の身体を後ろから抱き締めた。



「っ、暁!?」



慌てて離れようとする莉茉を抱き締める腕に力を込める。



「……やっぱり…。」


「……?」


「……このまま寝室に籠りてぇ。」



小さな溜め息を吐き出す。




なぁ、莉茉。


――――可愛い過ぎるだろ。





このまま仕事なんて、蛇の生殺しだ。



「―――馬鹿。」


「ふっ。」



耳まで赤く染めて俯く愛おしい莉茉の頭に口付けを落とした。



「莉茉。」



自分の膝の上に乗せた莉茉ちゃんの顔を覗き込む暁。



「うん?何?」


「夜、どこかに飯でも食いに行くか?」


「本当?」



ぱっと、莉茉ちゃんが顔を綻ばせる。




暁と出掛ける事が本当に嬉しんだろうな。




俺まで微笑ましくなる。



「あぁ、どこに行きたい?」


「ファミレス!」



莉茉ちゃんが暁に満面の笑みを浮かべた。





……ファミレス?



突拍子もない場所に、バックミラー越しに莉茉ちゃんを凝視してしまった。



「…ファミレス?」



ほら、暁だって驚いてるじゃないか。




普通なら、ここは高級レストランとかでしょう!?



夜景の綺麗な場所とか!



「うん、またチョコレートパフェが食べたい。」



きらきらと莉茉ちゃんが瞳を輝かせる。




相当、チョコレートパフェがお気に入りなんだろう。



「他には食べたい物は無いのか?」


「うーん。」


暁に聞かれて莉茉ちゃんが悩み出す。



「…特に無いかな…。」


「……そうか。」


「私なら、何でも良いよ?」



屈託なく莉茉ちゃんが笑う。



「ご飯ぐらい食べなくても平気だし。」


「……。」



何気ない莉茉ちゃんの言葉に暁が目を細めた。




…あ…


……怒ってる。



「…莉茉…。」


「っ、」



低い暁の声に、莉茉ちゃんの身体が固まった。



「あ、暁!?」


「うん?」



焦る莉茉ちゃんに暁が口角を上げるが、その瞳は決して笑ってない。



―――こぇっ!!



俺の背筋も凍り付く。


「どうした、莉茉?」


「…どうして暁は怒ってるのかなーって、思って…。」



乾いた笑みを莉茉ちゃんが浮かべた。



……その頬は引き攣っている。



「莉茉。」


「は、はい!?」


「飯を食わないつもりか?」


「…いや、あの…。」



莉茉ちゃんが目をさ迷わせる。



「莉茉、ちゃんとこっちを見ろ。」


「……、」



暁が莉茉ちゃんの顎に手を添えて、顔を近付けた。



「…まさか…。」


「う、うん?」


「デザートだけとは言わないよな?」


「……。」



にっこりと微笑む暁から、さっと視線を逸らした莉茉ちゃん。





……図星だったんだね。