孤独(ひとり)は、





慣れているはずなのに



「…でも、暁。」


「何だ?」


「…早く帰って来て……。」



少しの我が私の儘が口から出ていた。


「あ?」



顔を上げた暁が不機嫌そうに私を見下ろす。



「何を言ってんだ?」


「え?」


「お前も一緒に連れて行くに決まってるだろ。」


「…はい?」



ぱちぱちと瞳を瞬く。



一緒に行く?




…えっと…


この場合って、私が暁の仕事場にって事、だよね…?




……え?何で!?



「……??」



疑問符が頭を埋め尽くす。



意味が分からない。



「っ、わっ!!」



立ち竦む私を暁が抱き上げる。



「ちょ、暁!?」


「大雅、支度をするから待ってろ。」



暴れる私を抱き上げたまま、暁はすたすたと歩き出した。


「莉茉、服を着替えろ。」



莉茉を抱き上げたまま連れて来たのは、寝室に備え付けられているクローゼットの前。




華奢な身体を優しく下ろす。




「…暁…」


「うん?」



…………何だ?




クローゼットの中から服を選んでた俺は、莉茉に視線を向けた。




「本気なの?」


「何がだ?」


「……私が一緒に行くって…。」



不安そうな顔をした莉茉が俺を見上げる。



「…嫌か?」


「え?」


「俺と一緒に行くの。」


「…だって…。」



莉茉が困ったように目尻を下げた。




「だって?」


「…迷惑になる…。」




俯く莉茉。




……はっ?



迷惑!?




ーーーそんな事ある訳がねぇ。



「莉茉。」



俯く莉茉の頬に手を添えて上向かせる。




「…何?」


「例え仕事だろうと、俺は片時もお前とは離れたくねぇぞ。」



やっと、小鳥を手に入れたんだ。





―――側を離れて堪るか。




「…それに。」


「……?」


「お前が側にいなかったら、仕事も手に付かなねぇよ。」


「…暁…」




俺が微笑めば莉茉の頬がうっすらと朱に染まる。




それでも、その顔はどこか嬉しそうで…。




「…私も…。」


「うん?」


「…暁と離れなくない。」




恥ずかしそうに顔を赤らめた莉茉がはにかんだ。



「……、」




……そんな顔を見せらたら、このまま寝室に籠りたくなるじゃねぇか…。




ぐっと莉茉に対する沸き上がる欲求を堪える。



「あぁ、俺も…。」


「……ん」



莉茉の柔らかな口内を堪能する事だけで我慢した。



「っ、暁!」



キスを深めようとした俺を弱々しい力で莉茉が押し返す。




「どうした?」


「…駄目だよ。」


「駄目?」



何がだ?



首を捻る俺から莉茉が目線を逸らす。



「…大雅さんが…。」


「…………大雅?」



――――どうして、この場面で大雅なんだよ。




莉茉の口から他の男の名前が出た途端、男の機嫌が悪くなる。



「……暁?」



不機嫌な男に驚いたように莉茉が目を丸くした。