「うん?どうした?」
「……あの、さ。少しだけ、叶くんと2人で話しちゃ駄目かな…?」
…私…
暁の優しさに甘えてる。
狡いね…。
一瞬、驚いた表情を浮かべた暁がその顔を引き締めた。
「大丈夫なのか?」
「…うん、ちゃんと叶くんと向き合わせて?」
お願いを拒否する事なく、私の意思を尊重してくれる暁。
「―――分かった。」
…ほら…
やっぱり、渋々でも暁は私の頼みを受け入れてくれるんだ…。
「莉茉、絶対に無理だけはするなよ?」
「ん。」
するりと私の頬を撫でた暁がソファーから立ち上がった。
「叶、莉茉に指一本でも触れたら許さねぇからな。」
鋭い暁の瞳。
決して、私に向けられる事のない威圧的な声色。
「はい、肝に銘じます。」
暁の視線をしっかりと受け止めた叶くんが頷いた。
「莉茉、何かあったら直ぐに呼べよ?」
「うん、暁ありがとう。」
「あぁ。」
名残惜しそうに私の額に口付けた暁が、部屋から出て行くのを見送る。
「……莉茉、俺――。」
ドアが閉まった事を確認した叶くんが口を開いたけれど…。
ぷつりと、
続きの言葉を途切れさせた。
「叶くん…?」
続きの言葉を飲み込んだ俺を、首を傾げた莉茉が不思議そうに見つめてる。
「っっ、」
…言えねぇよ。
あんなに傷付けたくせに…。
どの面下げて好きなんて、
………愛してるなんて告白が出来るんだよ。
「っ、莉茉は―――。」
「うん?」
「幸せか…?」
…もう…
二度と、莉茉が俺のものにならないんだって実感したい。
―――徹底的に。
―――完膚なきまでに。
…………打ちのめしてくれよ。
「…ん、幸せだよ。」
恥ずかしそうにはにかむ莉茉に、やっぱり胸は痛むけど…。
「…そっか。」
俺は微笑んだ。
………心から。
「なら、失恋だなぁ。」
冗談に聞こえるよう。
軽く言えてるだろうか…?
…なぁ、莉茉。
俺は、ちゃんと笑えてる?
「え?」
驚いたような表情の莉茉に、俺の気持ちは気付いていなかったんだと悟った。
「知らなかっただろ?」
「…うん。」
「俺は、お前が好き“だった”よ。」
俺からの最後の嘘。
震えそうな身体を抑え込んで、口角をゆるりと上げる。
「だった?」
「あぁ、あのままいたらマジで莉茉に惚れてたかもな。」
……嘘だよ。
お前の事は、今だって愛おしく思ってる。
でも、
この嘘だけは、どうか吐き通させてくれ。
お前がずっと笑っていられるように…。
「莉茉はすげぇ良い女だからな。」
「なっ!?」
真っ赤に顔を染めた莉茉を見て、けたけたと笑った。
「…っ、冗談なの?」
「さぁ?」
知らなくて良い。
お前が気に病む必要はねぇから。
「もう、叶くん!」
好きだよ。
………莉茉、愛してる。
本音は、俺の中にそっとしまっておこう。
色褪せる事のない、綺麗な思い出として。
…………そうするべきだって分かっているから。
「まぁ、しょうがねぇから桜樺に通うなら、莉茉の事を気に掛けてやるよ。」
近くから守らせてくれ。
莉茉が、
―――泣く事も。
―――悲しむ必要も。
その笑顔がずっと輝き続けるように見守るから…。
…誓うよ…
「ん、ありがとう。」
ふわりと莉茉が微笑んだ。