直ぐには分からなかったけと、この近辺で頂点に立つ女性。



高崎美夜。



誰もが憧れと妬みを向ける人。



「っ、な、んであの子がそんな人と…。」



かたかたと握り締めていたお母さんの手が震え出す。




…………ねぇ、何を考えてるの?





自分の“過ち”が知られてしまうかも、とかかな…。



「お母さん。」


「……。」


「莉茉をこのままにしておいても良いの?」




知られてしまうよ?




…………あなたが、必死に隠そうと思っている“真実”を…。



「……どうにかしないと…。」



ぼつりとお母さんが呟いた。





……そうね。



どうにかしないと…。




かりっと、私は自分の爪を強く噛み締めた。




莉茉。




幸せになる事なんて

絶対

私は許さない。





何度でも

壊してやるわ。





例え



それで

地獄に堕ちたとしても





私は

構わない。


「暁、良いのか?」




倉庫から自分のマンションに戻って、ソファーに座りながら煙草を吹かす暁に俺は声を掛ける。



「何が?」


「莉茉ちゃんを叶に会わせる事がだよ。」




良いのかよ?



あんなに溺愛してる莉茉ちゃんを叶に会わせても。



「…あぁ。」




暁がテーブルの上の灰皿で煙草の火を揉み消した。




「通達が出た時点で、莉茉の存在は注目を集める。」



「…まぁ、そうだな。」



それだけの効力が、高崎の親父さんの通達には力がある。





良い面もあるが、


時には諸刃の剣にもなり得るほどの闇を引き寄せてしまうだろう。



「そんな莉茉が叶と同じ桜樺に通い出せば、あいつは必ず接触をしようと考えるはずだ。」



もう一本、暁が煙草を取り出して火を付ける。



「確かに叶に我慢は出来ないだろうね。」




莉茉ちゃんの気持ちも考えずに衝動のままに動きそうだ。



「なら、目の前に餌をぶら下げておけば大人しくなるだろ?」


「…餌って。」



…おい、暁。



莉茉ちゃんは餌なのか?




まぁ、叶ならすんなりと釣られるだろうけど…。



「それに、俺のいない時に接触させられる訳がねぇ。」




暁の鋭い瞳。




「大雅。」


「何だ?」


「お前の主は誰だ?」




俺の顔が引き締まる。



「暁様です。」


「なら、お前が成すべき事は分かるな?」



忠告はした。



通達の重みを、叶も十分に分かっているはずだ。




…なら…



「はい、叶が莉茉様に余計な接触をした場合は始末します。」


「大雅、抜かるなよ?」


「えぇ、必ず。」




主の期待は裏切らない。






…何があっても…




「莉茉にもぜってぇに悟られる事もするな。」



短くなった煙草を灰皿で揉み消した暁の視線が玄関の方へと向けられる。




…何だ?




怪訝に思った瞬間、聞こえたドアの施錠を開ける音。



「あれ、誰か来てる…?」




とたとたと近付く莉茉ちゃんの足音に、緊迫した部屋の空気も霧散した。




「お帰り、莉茉。」


「ただいま、暁。」




にっこりと暁に微笑んだ莉茉ちゃんの視線が俺に向けられる。



「あっ。大雅さんも要らしたんですね。」


「うん、暁に少しだけ用があったからね。」


「用?暁、お仕事なの?」



首を傾げて見上げる莉茉ちゃんに暁の顔が緩む。



「いや、用は終わった。」


「そうそう、俺も帰ろうとしてた所だったし。」



莉茉ちゃんが帰って来たなら、長居は無用。



さっさと帰るとしますか。



「またね、莉茉ちゃん。」


「はい。」



おずおずと微笑んだ莉茉ちゃんに背を向けて、俺は暁のマンションを後にした。