「お母さん、どうかしたんですか?」


「…忘れてたわ。」



気まずそうにお母さんが目をさ迷わせる。




忘れてた?



「何をお母さんは忘れてたんですか?」


「莉茉ちゃんにお昼ご飯をちゃんと食べさせなくちゃ、怒られちゃう。」


「……?」



怒られる?


お母さんが?



「…あの、お母さん?」



「なぁに?」


「誰に怒られるんですか?」


「知りたい?」



お母さんの瞳が楽しそうにきらりと輝く。




…えっと…



「はい、まぁ…。」



そうお母さんに聞かれれば知りたいと思う。



「あのね?暁によ。」



暁…?




くすくすと笑い出すお母さんを凝視する。



「暁がしつこく莉茉ちゃんにご飯だけは必ず食べさせろって。」


「……。」


「凄い形相だったのよ?」



…暁…



そんな事をお母さんに言っていたなんて知らなかった。




私が食べないから、気にしてくれていたんだね…。



「莉茉ちゃんは暁に愛されているわね。」


「……はい。」




お母さんに小さくはにかんだ。


「ねぇ、これが莉茉ちゃんに似合いそう。」


「どれですか?」



お母さんが指差した先の小ケースを覗き込む。



「これよ、羽のやつ。」


「羽?」



目の前には羽の形をしたネックレスが置かれていた。



…お母さん…



さっきの私の話しを気にしてくれていたんだ…。



「えぇ、莉茉ちゃんは羽が好きなんでしょう?」



私に視線を向けたお母さんが優しく微笑む。



「莉茉ちゃんに私からプレゼントさせて?」


「…でも…。」



今までのお店も、全てお母さんがお金を出してくれたのに…。



躊躇ってしまう。



「そうな顔をしないで、莉茉ちゃん。」



困ったように笑うお母さん。




「私が莉茉ちゃんにプレゼントしたいんだから何も気にしなくても良いのよ?」


「…お母さん…。」




お母さんの優しさに胸の奥が温かくなる。



まだ会ったばかりなのに…。




実の両親よりも、お母さんは私を可愛いがってくれる。



『親父達は、莉茉が可愛くて仕方がねぇんだよ。』



不意に蘇る暁の言葉。




…本当だね。



暁の言った通りだよ…。



「ありがとうございます、お母さん。」


「受け取ってくれる?」


「はい。」




頷いた私にお母さんは満面の笑みを浮かべた。




「じゃあ、これをプレゼント用に包んでちょうだい。」


「かしこまりました。」




店員さんが小ケースからネックレスを取り出して、綺麗に包装していく。




それを見ていたお母さんが私に視線を向けた。



「莉茉ちゃんは他に気に入ったものはなかったの?」


「はい、何だか気後れしちゃって……。」



価な宝石店は居心地が悪い。



「気後れ?」


「えぇ、触るのも恐れ多い気がします。」


「まぁ。」



お母さんの顔が破顔する。



「莉茉ちゃん、何もそんなに固くなる事はないのに。」


「…ですね。」



くすくすと笑い声を上げたお母さんに恥ずかしくなった。



「…でも…。」



涙を拭ったお母さんが呟く。




「そこが暁には良かったのね。」


「……?」




良かった?


何の事だろう…。




何度も納得したように1人で頷いていたお母さんが優しい眼差しを私に向けた。