「どんな危険があって、どれ程に危ないのかも…。」




一言、


また一言と莉茉は噛み締めるかのように言葉を紡いでいく。



「…でも…。」


「でも?」


「何も分かりませが、暁の側に一緒にいたいと思う気持ちは変わりません。」



しっかりと親父の目を見つめながら言い切る莉茉。




その瞳には、確固とした強い決意の光が宿っていた。



「……そうか。」



莉茉の答えに、目の前の親父の表情が和らぐ。




張り詰めた空気も霧散し、俺も身体の強張りが解けた。



「暁。」


俺に向けられ親父の瞳。




「うん?」


「直ぐに莉茉さんの通達を出そう。」


「あぁ、頼む。」




ほっと胸を撫で下ろす。



これで、莉茉が俺の女だと言う事が近日中に街中に知れ渡るだろう。




親父が出す通達は、それほどまでに意味が重い。




莉茉を狙う奴等に対しての牽制にもなるだろう。



「暁、良かったな。」


「…何がだよ。」


「ん?余計な“虫”が少なくなるだろう?」




そんな俺の考えを見透かしたように親父はにやりと笑った。



「暁、良かったな。」


「…何がだよ。」


「ん?余計な“虫”が少なくなるだろう?」




暁の隣で、2人のやり取りを私は黙って聞いていた。




最後に頼さんはにやりと笑う。




……虫?



何の事だと首を捻る。




暁は虫が嫌いなんだろうか…?



「…チッ、余計な事を莉茉に聞かるんじゃねぇよ。」




不機嫌そうな顔で頼さんを睨み付ける暁。




「それは、すまなかったな。」




そんな暁に頼さんは楽しげな笑みを浮かべた。



その顔は、悪戯っ子のように輝いている。




「…親父。」


「何だ?」


「悪いなんて、絶対に思ってねぇだろ?」



「……。」



呆れたように見つめ暁に頼さんは答える事なく、にこやかに微笑んだだけだった。




「莉茉さん。」


「は、はい。」



急に頼さんに視線を向けられて、私の背中が真っ直ぐに伸びる。




「君のこれからの生活についてなんだが…。」


「…っ、はい。」




暁と一緒に暮らす事を反対されるのだろうか…?




だとしても、あの家には戻りたくないし、




……戻れない。



ぎゅっと、手を握り締める。



「…莉茉…。」



そっと私の手に重なる温もり。





暁の大きな手が、私の握り締められた手を上から包み込むように添えられた。




「…暁。」


「大丈夫だ。」




不安を見透かしたように暁の瞳が私を見下ろす。



「俺が側にいる。」


「…うん。」


「1人で抱え込むな。」


「うん。」




暁に小さく頷いた私は、自分自身を落ち着かせるように息を吐き出した。




「あ、の、お父さん…。」


「お父さん…?」




恐る恐る口を開いた私に、頼さんは一瞬だけ驚いた表情を浮かべると、直ぐに照れ臭そうに顔を緩ませる。



「…何だか、照れるな。」


「え?」


「私達には2人の息子しかいなくてね。」



……2人。



暁には、お兄さんか弟がいるんだ…。



「君にお父さんと呼ばれるのは結構、嬉しいもんだな。」


「あら、頼さんがお父さんなら、私はお母さんね。」




しみじみ呟く頼さんの隣で美夜さんも嬉しそうに微笑んだ。

寵愛の姫 Ⅱ【完】

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