……どうやら、暁は頼さんに嫉妬をしたらしい。
嬉しいよ?
嬉しいんだけども…。
……頼さんは暁のお父さんなんですけどね!
内心で突っ込む。
暁が頼さんに嫉妬をする必要はないと思うんだけど…。
「…これはこれは…。」
頼さんのくすくすと楽しそうな笑い声。
その様子は、残念ながら暁のせいで窺い知れない。
「…えっと…。」
これは一体、私はどうすれば良いんだろう…?
これって、
怒るべきなの?
…それとも…
このままでいるべきなの…!?
もともと、他人との付き合いが少なかった私には難解過ぎる。
凄く反応に困るんだけど…。
「…暁。」
「あ?」
「本気なんだな?」
「当たり前だろ。」
な、何?
どうして、2人とも平然と話してるの!?
可笑しいのは私なのかな…?
暁と頼さんのやり取りを、視界を塞がれたまま呆然と聞くしかなかった。
「なら、莉茉さんを困らせるのは止めなさい。」
「あ?」
「このまま嫌われたいなら別だが?」
「……チッ。」
舌打ちした暁が私から手を退ける。
クリアになる視界。
何度も瞳を瞬く。
…………そんな私の目に入ってきたのは、満足そうに笑っている頼さんの顔だった。
「……チッ。」
満足そうに笑う親父に舌打ち溢れ落ちる。
…ムカつく。
親父の言いなりになるのは癪に障るが、莉茉の名前を出されたら我を通す事が出来る訳がねぇ。
「取り敢えず、暁。」
「あ?」
「莉茉さんをソファーに座らせたらどうだ?」
「……。」
にこやかな親父を睨み付けて莉茉を自分の膝から下ろして、ソファーに座らせた。
離れる心地の良い体温に、一抹の寂寥が募る。
やっぱり、
……そんな俺を親父は楽しそうに見つめていた。
「美夜も座りなさい。」
俺達の向かいに座った親父がお袋を自分の隣の席に促す。
それだけで、年甲斐もなく嬉しそうにぴったりと寄り添う目の前の夫婦。
…手だって握り合ってるじゃねぇか。
息子の前だってイチャつく親父達に、俺は溜め息が溢れ落ちそうになった。
「自分達だって、イチャついてんじゃねぇか。」
「「……。」」
鼻を鳴らせば親父は気まずそうに宙に視線を向け、お袋は俺を睨み付ける。
「…暁。」
「あ?」
「あんた、煩いのよ!」
「……。」
「良い?私達は夫婦なの。イチャつく事の何が悪いのよ!?」
喚くお袋から俺は黙って親父に視線を向けた。
「…親父。」
「うん?」
「…帰らないのかよ?」
…勘弁してくれ。
お袋の相手をするだけですげぇ疲れる。
「まだ、俺は仕事が残ってるんだよ。」
どこまでも自由奔放で傍迷惑な俺の母親。
唯一、そんなお袋が素直に言う事に従う相手は親父だけ。
早く連れ帰ってくれよ…。
げんなりする俺に親父は真剣な表情になった。
「暁、お前が莉茉さんに本気なら私も確認しなくちゃいけない事がある。」
「確認?」
「あぁ。」
頷いた親父の瞳が莉茉へと向けられる。
「莉茉さん。」
「…はい。」
「君は暁や私の本業を知っているかい?」
「はい、知っています。」
親父から視線を逸らす事なく、莉茉は力強く頷いた。
「なら、話しは早い。暁が若頭でいるかぎり、莉茉さんは常に危険に晒される事になる。」
「…はい。」
「それでも、君は暁の側に一緒にいる覚悟はあるかい?」
真剣な親父の顔。
じっと、その瞳は莉茉だけを映している。
真っ直ぐに、心の内側さえも見透かすかのように…。
「……。」
黙り込む莉茉。
小さな細い手でさえも、固く握り締められている。