「…暁様は…。」
「うん?」
「それほどまでに、莉茉様を大切にしておられるのですね…。」
この目で見るまでは、どこか半信半疑だった。
しかし、今は疑いようがないそれが事実。
「…あぁ…。」
ふっと笑う暁は、眠る莉茉様を優しい瞳で見下ろす。
「こいつ以外に、愛おしい女はいねぇ。」
それは、とても優しい声色だった。
「……そう、ですか…。」
それだけで、私の中で莉茉様に対する忠誠心が芽生える。
仕えるべき方は暁様。
そして、
―――これからは莉茉様をも対象となったのだ。
「……、」
ふと、暁様の瞳がドアの方へと向けられる。
じっと、注がれる視線。
…………その先の“何か”を見透かすかのように…。
「……暁様?」
……何だ?
厚い扉は防音過ぎて、此処からでは外の様子が分からない。
しかし、暁様が気にされると言うなら、何かしらの事があるのだろう。
…この方の勘は侮れない。
その予想は、当たる。
正確な程に…。
「暁っ!!」
――ー少しの静寂の後、慌ただしくドアが開けられた事でまた思い知った…。
「っ、何!?」
余りの大きな音に飛び上がる。
きょろきょろと室内を見渡せば、私を見て固まる女性の姿。
「……?」
……誰?
あっ、暁の知り合いとか…?
「…おい、」
不思議に首を傾げる私の後ろから低い暁の声。
びっくりして振り返れば、不機嫌な顔で女性の事をきつく睨み付けていた。
「…何よ?」
そんな暁に固まっていた女性がはっと、瞳を瞬かせる。
「お前のせいで、莉茉が起きちまったじゃねぇか。」
凄む暁。
わ、私?
もしかして、暁が怒ってる理由ってそれだったの?
「…お前?」
女性が目を吊り上げた。
……こ、怖い。
美女が怒ると、こんなにも迫力があるもんなんだね…。
…………初めて知ったよ…。
「暁、お前じゃないでしょう!?」
「あ?」
「何時も言っているじゃない、お母様とお呼びなさいよ!」
暁に憤る女性を私は呆けたように見つめる。
「…お母さん?」
若々しいこの人が、
………暁のお母さん?
「…嘘…。」
…見えない。
どう考えても、目の前の女性が暁の母親とは思えなかった。
それほどまでに、とても若々しく見える。
「あら、嘘じゃないのよ?」
ふふっと上品に笑う暁のお母さんに目を奪われた。
「暁の母で、高崎 美夜と申します。」
妖艶に美夜さんは微笑む。
その笑みには気品さえも漂っていた。
例えるなら、洗礼された美と言えば良いのだろうか…?
「…それにしても…。」
私と暁を交互に見つめる美夜さんの瞳がきらりと光る。
な、何?
なんで美夜さんは爛々と瞳を輝かせているの?
「……?」
「…チッ。」
舌打ちした暁が、困惑する私を抱く腕に力を込めた。
それだけで、安心する事が出来て身体の緊張が解れる。
「情報は本当だったのねぇ。」
…情報?
「……?」
「……チッ。」
首を捻る私ともう一度、舌打ちをする暁。
「ふふ。」
そんな私達を微笑ましそうに美夜さんが目を細める。
その瞳は、何だか楽しそうに輝いていた。
「…暁…。」
「あ?」
「下ろして。」
暁の腕を軽く叩く。