「っ、」
ぐったりとした自分の身体を暁に預ける。
息も絶え絶えで、呼吸も上手く整わない。
「…莉茉…」
「……。」
掠れた暁の声にゆっくりと目を開ければ、欲情にぎらつく瞳が私を見下ろしていて……。
「―――良いのか?」
「…。」
たた、私は暁に頷いた。
「…そうか。」
暁の手が私の背中を撫でる。
それだけで、ぴくりと跳ねる私の身体。
「っ、」
恥ずかしさに、目の前の暁の胸に顔を埋めた。
「莉茉。」
「……ん?」
暁の腕によって、強く引き寄せられる。
「……俺もお前が欲しい。」
「っ、」
ーーー頭に。
ーーー剥き出しの肩に。
暁によって口付けられていった。
「……うん、私も…。」
覚悟はある。
暁に全てを捧げたい。
―――身も。
―――心も。
全部を。
…でも…
「―――その前に、暁に言わなくちゃいけない事があるの…。」
私の醜い思いを…。
暁には、
―――全てを知っておいて欲しいから。
「…俺に言わなくちゃいけない事?」
「……うん、叶くんとの事なんだけど…。」
「……。」
ぴたりと私の背中を撫でていた暁の手の動きが止まる。
「…私は叶くんが好き“だった”よ。」
「……だった?」
私の過去形の言い方に、怪訝そうな暁の声が落ちた。
「そう、叶くんが茉莉と寝たって聞いて、私は分かった事があるの。」
「…何を?」
「……叶くんを好きだったのは、茉莉を知らないから取られる心配がなかった“所”だったって…。」
頑なに私が自分の事を叶くんに言わなかったのは、
……それで安心していたから。
茉莉に取られるのを何時もどこかで怯えてた。
………叶くんは、玩具じゃないのにね…。
「…私が絶望したのは、叶くんが茉莉を抱いた事にじゃない。」
暁の顔を見れなくて、その胸元に埋めたまま目を瞑る。
「―――私よりも、茉莉を優先した叶くんになの…。」
あの時、
気付いてしまった私の中にあった醜い感情の正体。
どろどろと沸き上がった叶くんへの激情の名前は
―――“恋愛”ではなかった。
「……好きの種類が違った。」
そんな彼に対して抱いた私の感情は、
……憧れだったんだと思う。
…暁が月なら…
…叶くんは、私にとっては太陽のような存在。
眩しいくら輝く光。
きらきらと輝いて見えてたの。
あの暗い場所で、
…………叶くんは、私にとっての一筋の光だった。
「…依存だった…。」
私の知らない世界を見せてくれる叶くん。
そんな彼に依存してた。
ちっぽけ存在の鳥でも、空を飛べるのだと…。
見せ掛けの羽を手に入れた気でいたの。
違ったのに…。
……そんな訳なかったのにね。
馬鹿な勘違いをしてしまったんだ。
「…怖かった…。」
人をもの扱いする自分自身の醜い考えに…。
その事実に、
……愕然とした。
誰からも愛された事のない私は、人を好きになれないんじゃないかって…。
叶くんに会うと、その時を思い出してしまう。
だから、怖いんだ。
……叶くんに会うのが…。