「私は同期との楽しかった経験がないから、羨ましいな…。」

薫がポツリと呟くと、志信がすかさず自分を指さした。

「オレいるじゃん。」

「うん。積極的に仲良くしてくれた同期なんて笠松くんだけだ。8年目にして、ようやく同期と仲良くなれた。」

SS部と販売事業部の飲み会の日、一人つまらなくお酒を飲んでいた時に、同期同士仲良くしようと声を掛けてきた志信を思い出して、薫は思わず笑みを浮かべた。

「近寄りがたかったもんな。あの年、女子はほとんど高卒だったし。」

「入社して最初のうちは、先輩からも怖がられて、腫れ物扱いだよ。みんな、目を合わせようとしないの。ヤバイ人と思われてたみたい。」

薫の言葉に、石田が大笑いした。

「確かに、変な噂だけはよく聞いた。」

「幹部の知り合いのヤクザの娘とか。」

前川がポツリと言うと、薫はため息をついた。

「普通の家庭の普通の娘ですよ。」