薫にはかつての恋人の浩樹に、社内恋愛はいろいろ面倒だから付き合っているのは他の人には内緒にしておこうと言われて、つらい思いをした経験がある。

それは浩樹に薫以外の女性がいたから隠しておきたかったと言う理由があったからで、志信には薫との付き合いを隠しておきたい理由なんてない。

むしろ、他の男に手を出されないように、“薫はオレの彼女だ”と全員に言いたいくらいだ。

(確かに最初はオレの片想いだったけどさ…付き合ってても、なんかオレばっかりが必死になってるみたいじゃん…。)


志信は眉間にシワを寄せてビールを煽った。

「どうかした?」

志信の気持ちも知らず、薫が尋ねた。

「別に…。」

「そう…?」

ぶっきらぼうに答える志信の様子に違和感を感じながらも、薫はそれ以上は聞かなかった。