「じゃあっ!今日はこれで!!」
「!!おいっ!」
思わず声を出してしまう。
しかし、それに構わずアイツは走っていった。
黒く長い髪が、薄暗い闇のなかでも存在を主張する。
それでも最後は、闇に溶けて見えなくなってしまった。
「……はぁ」
何なんだ、アイツは。
喧嘩が強いと思ったら、今日はおかされかけて。
弱ってると思ってかくまってやってたら、急に元気になって脱走。
つくづく思い道理にならない。
「…クッ、ハハハ」
知らぬ間に笑っていた。
いや、笑うだろこの状況。
笑うしかない。
「…警備を強化しとくか。このままだと背中がガラ空きだ」
またここから逃げられんのも面倒だしな。
俺は窓から離れた。
あいつらに追うのを止めさせねぇとな。
じゃないとアイツが―――ん?
ベッドの近くに、何かが落ちていた。
拾ってみるとすぐわかった、眼帯だ。
「…おいシオリ」
「?なに?」
ルナと一緒に部屋に残っていたのだろう、すぐに返事がきた。
「どーしました?」
「お前は呼んでねぇ、来んな」
「ヒドいですっ」
「まあまあ」
ふてくされるルナを宥めながら、シオリがきた。
その後ろに遅れてルナも着いてくる。
「これ、誰のだ」
シオリはすぐにわかったらしい。
「あぁそれ、あの子の物よ。忘れていっちゃったのね」
「そうか。…これはアイツが寝ている間に取ったのか」
「えぇ、すごく邪魔そうにみえたから…それがどうかしたの?」
「…いや」
ヒョコッとルナが横から割り込んできた。
「あれ、忘れてっちゃったんですか?意外とドジなんですね~」
「うるせぇ」
「アダッ!」
頭にポカッといれてやった。
「ちょ、殴るなんてひどいじゃないですかぁ!」
「まあまあ」
何て言う二人の会話を聞き流しながら、俺は考えに耽っていた。
…普通忘れるか?
日常的に着けているのであれば、どんな非常事態でもそれが日課になっていれば、忘れるなんてことはあり得ない。
それに、着けてないことに違和感を抱くはずだ。
ということは、一時的に着けていたってことになる。
じゃあ、なんのために?
ものもらいじゃなかった。
病的な何かでも予防でもない。
…隠すため?
でもアイツの目は………。