ウォンッウォンッ
「な、なに!?」
突然の音に驚いて、前方を見る。
ビュンッ
「きゃ!」
冷たく強い風が前から吹き付けてきた。
「わ、ちょ、嘘でしょ!?」
首が妙に寒いと思ったら、マフラーが後ろに飛ばされていた。
さっき緩めすぎた!
反対側の手すりに身を乗り出して手を伸ばすも、届かない。
そ、そんなあ!!
白いマフラーは、アスファルトの道路に向かって落ちていく。
「――え?」
あぁ落ちたと思った瞬間、バイクに乗った人が、それをキャッチした。
へ??なんで??は??
混乱しているうちに、次々と歩道橋の下をバイクの集団が走って行く。
さっきの音は、このバイクのエンジン音だったらしい。
「…て、マフラー!ちょっと、返してよ!」
エンジンの音はうるさくて、この集団の先頭にいるあの人に私の声は届かないって思った。
それでも、半分諦めで叫ぶ。
「――!…うそ」
バイクの集団が、遠くの角を曲がっていく。
その一瞬、あの人が振り返って、マフラーを待った手をこっちに向かって振ったように見えた。
気づいて、くれたの?
この距離で…?
胸が高鳴った。
頬が火照った。
暑いのか寒いのかよくわからなくなってきた。
素直に、嬉しかった。
ボーッと、バイクの集団が走り去って行った方を見る。
ヘルメットを着けずにバイクに乗っていた彼らは、きっといい集団じゃない。
不良かヤンキーか何かだ。
先頭にいたあの人、男っぽかったなぁ。
髪が銀色だった。
「…マフラー、あとでいいわけ考えなきゃな」
お父様にこれを話したら、もう二度とこの街にこれなくなる。
こんな危険なところ、娘一人で住ませられるかあ!ってね。
それだけはいやだった。
だって、マフラー返してもらわないと。
クルッと振り返って、もう一度、歩道橋から街をみる。
…もう、モノクロじゃなかった。
冷たくなかった。
いろんな色があって、熱を帯びてた。
この街が変わったのか、それとも私の目が変わったのかよくわからない。
変わった理由もよくわからない。
あの人の細かい容姿もわかんないし、名前も知らない。
ただ一つだけハッキリしていることと言えば、私の気持ちだけ。
「もう一度、会いたいな」
マフラー、返してもらうためにと、心のなかで付け加える。
凍てつく寒さのなか、私はまた、歩きだした。
――これが、私と彼らの最初の出会いになった。