終業式は無事に終わり、夏休みに入った。
勉強しながらも、そこそこに遊びそしてお祭りの日。
「できた」
「ありがとう」
「いいえ。快斗くんと行くんでしょう?」
「うん」
お母さんに浴衣を着せてもらう。
お母さんは、今33歳。
私を、19歳の時に産んだ。
「快斗くんと仲良くね」
「わかってるわよ」
「それとこれ。由羅に貸してあげるから、髪が解けたりしたら使いなさい。たぶん大丈夫だと思うけど」
「これ、お母さんの大事にしてるくしじゃ・・・」
「だから、特別ね」
そう言って笑う。
お母さんはそのくしを小さな巾着袋に入れ、私の着物の合せの中に入れた。
お母さんがずっと大切に持っているくし。
時々、愛しそうにそのくしを見つめていることを知ってる。
どれくらい大切なものなのか、聞いたことはないけれど。
玄関まで見送られ、下駄を履く。
玄関の上にいるお母さんは少し上から私を見下ろす。
その目が柔らかく細められ、私の髪を見つめる。
時々、私を見ると気にするその表情。
なにを考えているんだろうと思う。
愛しそうに、でも悲しそうに私の髪を見つめるんだ。
私の、一束だけ白い髪。
生まれた時から、伸びても伸びてもそこだけは白いままのその髪を。
お母さんは、愛おしそうに見るの。
私にとっては、いやでしかないこの不気味な髪。
なんだか無性に腹が立ってその視線から逃れるように顔をそらし玄関を開けた。