6時限目の授業終了を告げるチャイムが鳴ると、3年3組の教室の扉が物凄い勢いで開き、戸尻が反動で戻ってくるよりも早く、野球帽を被った少年達が飛び出してきた。
それぞれ贔屓の球団のカラフルな帽子の横っちょには、ジャラジャラと数えきれない位の野球バッジが所狭しと犇めき合っている。
ムラカミ「行くぞっ、今日はハゲ山コースやっ!」
廊下を先頭で走るムラカミは皆より背丈は低く痩せっぽちだが喧嘩はめっぽう強く、他校のヤツらと殴り合いになっても最後まで倒れる事なくケタケタと高笑いしているような頼れるヤツだ。反面、涙もろく人情話にはめっぽう弱い。
今日もオレらの仲間内で大ブームを巻き起こしている遊び『土管巡り』をするべく集合場所である校庭の端っこにある時計台に向かって猛ダッシュだ。
なんせこの遊び、定員制で4人迄と決まっているから皆必死で走る。オレらのルールによりメンバーから外れたヤツはその日のゲームには参加できないし、ルールを破ってこっそりこのゲームをしたヤツは袋叩きにされる。
ちなみにオレとムラカミはメンバーから外れた事がない。残りの二人は日替わりで、今日はどうやら、まこっちゃんと辻べーで決まりそうだ。
足の遅い辻ベーが全速力でこちらに向かって走ってくる。後続の奥井とケンジはどうやら追いつきそうになかった。辻ベーがドタドタと走っている間に、まこっちゃんが時計台にタッチしてメンバー入りが決定した。
ムラカミ「おいおい〜辻べー負けるんちゃうやろなぁ〜」
オレ「やばいねぇ〜 おーい辻べーがんばれやぁ〜」
額から凡そ子供らしくない油汗を流しながら、辻べーは必死になってオレらに向かって走っている。
辻べー「はぁはぁはぁっ、や、やべぇっ、はぁっ」
諦めかけてた奥井とケンジも辻べーの悲しい位の足の遅さを目のあたりにし、本気モードのダッシュを仕掛けてきた。
背後に迫る異様な殺気めいた空気は誰よりも辻べーが感じているのだろう、特徴のあるハの字眉毛がそれを物語っている。
ムラカミ「もうちょいやぞっ、頑張れ辻べー!はははっ」
ムラカミはいつもの調子でケタケタ笑っている。