誰もいない静かな廊下に愛しい背中が見える。


「せんぱーい!!!!」

「うわっ!?」



私は大好きな恋人、もとい先輩の背中に思い切り抱きつく。

先輩はかなり驚いたのか、肩がビクリとしていた。

はあ、先輩っていい匂い…。


「何を嗅いでるの、後輩ちゃん。」


先輩は私の方を振り向いて、そう言う。


「えっ、先輩の匂いに決まってるじゃないですか。」

「…………………。」


私の言葉に対して、先輩は無言で冷たい視線を私に向ける。


「いやん、先輩!
そんなに見つめられても困りますぅ!!」


私は笑顔でそう言うと、更に冷たい視線が私に向けられる。

そんな先輩も素敵すぎます!!!


「ということで一緒に帰りましょう、先輩。」


私は緩む頬を頑張って抑えようとしながら、先輩にそう言う。

先輩とはいつも一緒に帰っている。

入学式の日、私は先輩に一目惚れをした。

それ以来、アプローチをしまくった。

そして、現在は恋人という仲にまで発展した。

本当、アプローチした甲斐があったよ

やったね!!


「何が“ということで”なの。
とりあえず、離れて。」

「はい!!」


私は毎日やっているこのやり取りが好きだなぁ、と感じながら先輩から離れる。

そして、先輩の隣に並ぶ。

先輩は私と目を合わせる。

ここで先輩が手を私に差し出して、その手を私が繋いで帰る。

いつもなら、こうだった。

けど、今日は違った。


「せっ、せっ、せんぱい!?」


先輩は私の手は繋がず、私の体を抱きしめてきた。

私は急に先輩との距離が近くなったことにより、軽くパニック状態だ。


「……君ってさ。」

「ひゃい!!!」 


抱きしめている為か、先輩の声が耳もとで聞こえる。

私は恥ずかしさのあまり、噛んでしまった。


「馬鹿だし遅いし鈍感だし。
時々、変態っぽい発言もするしさ。」


何を言われるんだろうと、ドキドキワクワクしていた私。

いざ聞いてみたら、うん。

これって悪口のオンパレードかな?

えっ、泣いていいのかな。


「でも、笑った顔とか可愛すぎるし。
そのうえ、お人好しで無防備すぎる。」


あれ、これって貶されているのか?

それとも、褒められているのか?

そして、耳がくすぐったい。


「……僕以外の男に触られすぎなんだよ、後輩ちゃんは。」


そう先輩が言った瞬間、私の耳にふうっと息がかかる。


「………!?!?!?」


私は恥ずかしさとくすぐったさが爆発して、思い切り先輩をぐいっと押す。


「おわっ。」


でも、さすが男。

そんな声を出しつつも、私との距離はそこまで離れなかった。


「わっ、私はそこまで触られていません!」

「僕が後輩ちゃんを見かける度に肩とかを触られているけど?」


私は思わず反論をしたが、すかさず先輩はそう言ってくる。

……確かに思いあたる気がしないでもない。


「でっ、でも…。」


たぶん、恥ずかしさのせいだろう。

私はそれでも反論しようとした。

すると、先輩は私の頬を優しく先輩の両手で包む。


「僕だって、余裕がないんだよ?」


そう言って、先輩はにこりと笑う。

その笑みは“妖艶”という言葉がぴったり当てはまるようなものだった。

そして、次の瞬間には私の唇は先輩の唇によって奪われていた。

頬が熱く感じるのは夕日のせいだと、思いながら。