「あーもう、またあんたは…。」


そう言って、幼なじみは私の頬に付いていたお菓子のクズを取る。


「……ん、とれたわよ。」


そして幼なじみはそれを指で取り、パクリと口の中に入れる。


「ちょっ、なんで食べるのさ!?」


「えー、だってあんた。
前に“イケメンからこんな事されたーい”ってアタシに言ってたじゃない。」


私の問いに対して、幼なじみはニコニコと笑って私の頭を撫でながら言う。

まぁ、確かに幼なじみも黙っていればイケメンだ。

黙っていればの話だが。

とりあえず、これだけは言いたい。

そう思った私は、ありったけの空気を肺の中に詰め込んだ。


「お前はオネエだろうが!!!!!!」


そして、私はありったけの声量で叫ぶ。


「ちょっと、うるさいわよ。」


幼なじみはその整った顔を歪めながら、両耳を両手で塞ぐ。

私の幼なじみは顔はそこら辺のモデルやアイドル総嘗めの整った顔立ち。

更には成績優秀、スポーツ万能である。

他にも器用だったり要領が良い等もある。

これだけ凄ければ、幼なじみに欠点等ないようにもみえる。

だが、人間はやはり1つは欠点があるもの。

幼なじみの欠点、それはオネエという事だ。


「別に減るもんじゃないでしょ。」


そう言って、幼なじみは私が持っているクッキーの入った袋からクッキーを取って食べる。

幼なじみを女だと思った、そこの貴方。

私を男だと思った、そこの貴方。

幼なじみは歴とした男です。

私は歴とした女です。


「いや、私の中で確実に何かが減った。」


私もそう言って、袋からクッキーを取って食べる。

今は丁度お昼休み。

お昼休みは幼なじみといっしょに屋上で弁当を食べて、食後にお菓子を食べている。

そして毎度のように私の頬に付いたお菓子のクズを幼なじみを取ってくれている。

ついでに、いつもは取ったお菓子のクズなんて食べない。


「じゃ、何が減ったっていうのよ。」


幼なじみはむすっとしながら言う。

そして、幼なじみはクッキーをほお張る。


「……………乙女心?」


私はそこそこ悩んだ挙げ句、思いついたのはそれだけだった。


「あはははは、ないって!!
あんたに限ってそれはないわよ!!!
絶対、あんたに乙女心なんてないわよ!」

私が答えた瞬間、幼なじみは腹を抱えて笑いだす。

おい、私に限ってそれはないってどういう事だよ。


「私にだって、おっ、おっ、乙女心くらいあるんだからー!!!」


私はそう言ったが、果たして自分に乙女心があるのかと言った後に感じてしまう。

あれ、そういえば最近マンガ以外でときめいたっけ?

っていうか、乙女心じゃなくて女心じゃない?

私はどうでもいい事も考えつつ、自分に乙女心があるかないかを考える。


「たとえば、どんなのよ。」


幼なじみはニヤリと笑いながら私に問う。

“今、考えているところ”なんて言いたいけど…。

“やっぱり、ないんじゃない”って幼なじみに笑いながら言われるのが落ちだ。

考えろ、考えろ自分。

そして、何か良い案を思いつけ。


「やっぱり、あんたに乙女心はないんじゃないの?」


幼なじみは必死に笑いを堪えながら言う。

私に乙女心はないのか?

いや、何か幼なじみに証明出来れば…。

………ん?

しょうめい…?


「あー!!!!!!!!!」

「ちょっ、あんたは本当に声が大きいわね。」


私は頭の中にかなり良い案が浮かんだ。

なんで今までこんな良い案に気づかなかったんだろう。

幼なじみにニヤリと笑いかける。

乙女心が私にあるという意味を込めて。


「何よ、その顔…。」


幼なじみは少し顔を引き攣らせて言う。

これで乙女心が私にもあると断言出来る。

私は自信をたっぷり込めて幼なじみに言った。


「他のイケメン男子に私の頬に付いたお菓子のクズを取ってもらえばいいんだよ!」

「………………………はっ?」


幼なじみは私が放った言葉の意味が理解出来ないといった顔をする。


「だって、他のイケメン男子にお菓子のクズを取ってもらってときめいたら私も乙女心があるって事でしょ?」


私は幼なじみにそう言って、クッキーの入った袋を持って立ち上がる。

よし、善は急げだ。

そう思った私は屋上の出入り口であるドアに向かって走り出す。


「……待ってよ。」


後ろでそんな言葉が聞こえたと思ったらいきなり誰かに後ろから抱き締められる。


「どうしたの、幼なじみ。」


たぶん幼なじみが抱き締められているのだろう。

私は何故抱き締められているのか疑問に思ったので幼なじみにそう問う。


「確かにアタシは女より男が好き。」


当たり前の事を言われて、一瞬ふざけているのかと思った。

でも、その真剣すぎる声色に私は何も言えない。


「でも、あんたは特別な存在。」


その言葉と同時に強く抱き締められる。

いつもなら、振りほどくのに。

何故か今は振りほどけない。


「どんなに格好よくてイケメンで好みの男子でもあんたに変な事とかしたら嫌いになる。」

「……それは幼なじみだからじゃないの?」


私は幼なじみはっきりとした声に対して何故か震える声で言う。

その言葉を放った瞬間、心が痛くなった。

なんでこんなに心が締めつけられるくらいに痛いんだろう。


「幼なじみだからじゃないよ。
他に思い浮かばない?」


そう言った幼なじみの声はオネエじゃなくて男の声だった。

私は少しばかり考えてみたが何もわからなかった。


「………わかんない。」


私は恐る恐るそう答える。

頭の中はあり得ないくらい何か不安で埋め尽くされている。

無意識に握っていたのか、手の中でクッキーの袋がくしゃりと音が鳴らす。


「じゃあ、アタシ以外の男にあんたを触れさせたくないって言ったらわかる?」


幼なじみはそう私の耳もとで言う。

その声は低く少し掠れていた。

“嗚呼、幼なじみも男なんだ”と思いつつ私は首を横に振った。


「…………はぁ、前から思ってたけど、あんたって本当に鈍感よね。」


幼なじみはため息と共に普段のオネエの声に戻る。

そして、私を抱き締めていた腕をほどく。

少し寂しいなんて思ったのは、きっと気のせい。


「私は鈍感じゃないし。」


私は幼なじみの方を振り向いて言う。

私は普段の幼なじみに戻って安心したのか、おどけた言い方になってしまった。


「絶対に鈍感よ。
こんなにもアタシの心を惑わすのに、それをしている自覚すらないもの。」


幼なじみは妙に色気があるの笑みで私を見る。

その笑みを見て、バクバクと私の心臓がおかしいくらい動く。


「つっ、つまり、どういう事でしょう…?」


私は幼なじみの色気のある笑みに心臓がバクバクしすぎて思わず敬語で話してしまう。

すると、幼なじみはニコリと笑って私に近づいてくる。

あれ、目が笑ってないな。

私はなんだか嫌な予感がして後ろへ1歩ずつ下がる。

幼なじみは当たり前のように私に1歩ずつ近づいてくる。


トンッ


「…………えっ。」


そんな音と声と共に私の体は壁にあたる。

幼なじみはニコニコしながら私の顔のすぐ横に手を当てる。

あれ、これって壁ドンじゃ…。


「結局、あんたには遠回りじゃ伝わらないのがよーくわかったわ。」


幼なじみはニコニコしながら言う。

でも、目が笑ってない。

嫌な予感が確信に変わり始めている。

私は目を合わせちゃいけない気がして幼なじみから目をそらす。

でも、それが間違いだった。


「あーら、アタシから目をそらしちゃだーめ。」


そう言って、幼なじみは私の顎をくいっと持ち上げる。

そして、無理矢理幼なじみと目を合わせられる。

少し熱っぽい幼なじみの視線にまた心臓がバクバクと騒がしくなる。


「今から言う事は嘘でも冗談でもない。
アタシはあんたにそれを真剣に言うからあんたも真剣に答えてよね。」


幼なじみの本気すぎる目を見て、私は何も言えなかった。

だって、こんな男の顔なんて見た事ない。


「アタシはあんたが恋愛対象として好き。」


そう幼なじみに言われた瞬間、私の中で何かが弾けた。

切なくてもやもやして、それでいて幸せでフワフワしていて。

そんな感情が身体中を駆け巡る。


「ねぇ、アタシと付き合ってよ。」


幼なじみは切なげにそう言う。

………嗚呼、そうだったんだ。

私はその言葉を聞いて、もやもやしていた感情の答えがわかった気がした。


「私も幼なじみが好きなんだ…。」


私はポツリと呟く。

そう口にした瞬間、心の中にストンと何かが入っていく。


「………そんな事言われたらアタシ、期待するんだけど。」


幼なじみは笑ってるような泣いているようなよくわからない表情で言う。

私は答えの代わりに黙って微笑んだ。

その瞬間、私の唇は彼によって奪われる。

オネエだって歴とした男だと思った今日の出来事。

幼なじみが私の唇を奪う前に涙を流していたのは私だけが知っている秘密だ。