「先生、大好きです!!」
私が廊下を1人で歩いていると、いきなり物体が後ろから私に抱きつく。
「あー、はいはい。
わかったから抱きつかないで。」
私は抱きついてきた物体を睨む。
物体とは私にいつも付き纏うこの学校の男子生徒。
「嫌ですよー。
大好きな人にはずっと触れていたいんです。
先生だって、そうでしょ?」
男子生徒はニコニコ笑いながら言う。
うん、そりゃもちろん触れていたい。
私は男子生徒の言葉に頷いてしまう。
「でしょ?
だから、僕は先生が嫌がっても抱きつきますよ!!」
そして、男子生徒は更に強く抱きつく。
って、納得してる場合じゃなかった!!!
「他の先生方や生徒達に誤解されちゃうじゃない!」
「大丈夫ですよ、僕達は学校公認の中なんで。」
男子生徒は私をニヤニヤしながら見下ろす。
言われてみれば、最近はこの子に抱きつかれても周りに暖かい目で見られてるな…。
前までは冷ややかな目で見られてたけど。
………………………。
「いやいやいやいや。」
私は首を思いっきり横に振る。
危うく納得させられるところだった。
「とっ、とにかく、どんな理由があろうと抱きつかないで!」
私は頑張って男子生徒を離そうとする。
だが、さすが男子。
女の私の力で離そうとしてもびくともしない。
「ふふっ、男の力をなめちゃ困りますよ。」
男子生徒はそう私の耳もとで囁く。
いつもより低い声にどきっとする。
「あれー、先生。
顔が赤くないですか?」
男子生徒は悪戯っ子の笑みでそう言う。
なんだか、からかわれるのは性に合わない。
それと、男子生徒を諦めさせるのも含めて私はこう言った。
「私はお子ちゃまより、頼りになる年上が好みなんですー!!」
私はこれで諦めてくれると思った。
でも、これを言ったのは間違いだった。
「ひにぃ!?」
私が言葉を放った瞬間、私の耳たぶが何か生暖かいものが触れる。
「なに、僕をそんなに怒らしたいんですか?」
何かを口に含みながら男子生徒は喋る。
たぶん、私の耳たぶだ。
「先生って表情に出やすいから考えている事は何でもわかるんです。
っていうか、先生をずっと見ているからわかるんですけど。」
男子生徒は照れる事をさらりと言う。
私はその言葉を聞いて顔が熱くなった気がした。
「どうせ、僕を諦めさせるためにさっきの言葉を言ったんでしょ。」
図星すぎて私の顔は茹で蛸のように熱くなる。
そして、彼は私の耳たぶから口を離す。
「僕は先生が1人の女として本気で好きです。
先生とか生徒とか関係なく。」
男子生徒は急に真面目な声で言う。
私の心の奥は何故かその告白を聞いて、嬉しいと感じている。
駄目だ、この感情を認めちゃ駄目だ。
「先生は、先生はどうなんですか。
先生とか生徒とかいう関係を全てなくして。
僕の事をどう思っているんですか?」
男子生徒は震える声でそう言った。
今すぐ振ればいい。
頭ではそう思っているのに口は動かない。
「……きっ、嫌いじゃない。」
やっと出た言葉はこれだった。
さっさと振ればいいのに、なんで振れないの?
その答えなんてわかってる。
でも、わかりたくない。
「振るなら、ちゃんと振って下さい。
じゃなきゃ、僕は期待しちゃいますよ?」
男子生徒は抱きつく力がどんどん弱まる。
私はその言葉を聞いた瞬間、何かが吹っ切れた。
「………えっ?」
私は男子生徒を振りほどく。
男子生徒はなんとも間抜けな声を出す。
「きっ、期待するなら勝手にしとけ!!!!」
私は男子生徒にありったけの声量で叫ぶ。
そして、急いでその場を走り去った。
熱くなった顔を冷ましながら。