「だから全然たいしたことじゃないんだってば。いちいちそんなこと気にしないでよ」

「お前のことだから気になるんだろ」

 その言葉に、そらしていた視線がかち合う。

「………」

 反論しようとしても、次の言葉が見つからない。

「お前の側にいる男も、お前を守る男も俺でありたいんだよ」

「な、なにいってんの。私たちが守るのはひとみなんだよ。自分のことは自分で守れる」 

「もちろんひとみも守るし、お前も守る」

 膝を抱えるようにして膝の上に置いていた手に、聖の手が重なる。

「ちょっと、なにしてんのよ!」

 小声で怒鳴るも、いつものようにおちゃらけることなく聖が静かに明美を見返た。

「いつだって一番に考えるのはお前のことだけだ。もしこの先なにがあったとしても、お前だけは命に代えても守るから」

 明美の手を握る聖の手に、僅かに力が込められた。
 胸が痛かった。
 その言葉、ひとみにいってあげたらきっとすごく喜ぶ。
 私なんかにいったって、しょうがないのに……。
 

 あれから明美は仮眠を取って起きたときも、ひとみはまだ目を覚まさないでいた。
 少し顔色が赤いし、眉間にシワを寄せて苦しそうだ。
 そっとその額に手を伸ばし、触れる。

「熱い……」

 熱があるみたいだった。寝息も短い息継ぎを繰り返している。
 昨日の今日で、聖と顔を合わせにくかったけれど、すぐに二人を呼んでひとみは安静にさせることにした。
 保健室から水枕を拝借して、中にたっぷりの氷と水を入れ、そっと頭を乗せてやる。
 昨日寝てから一度も目を覚まさないのが気になった。
 聖なる祈りにどれだけの精神力が必要なのか、自分には分からないけど、かなりのエネルギーを消費するには違いないはずだ。きっとそうとう疲れてるに違いない。
 苦しげに目を閉じたままのひとみの髪を、そっと撫でてやる。
 せめて、今この時間、夢の中だけでも幸せな夢を見られますように。
 そう願いながら。