ここで初めて二階にいたことを知った。
玄関に私のローファーが几帳面に置かれていて、外に出る。
鉄でできた屋外階段を下りると大きな看板が目に入った。
古着屋ポシビリテ
どうやら古着屋らしい。
「見てく?」
「うわぁっ! えっと大丈夫です!」
いつの間に後ろに回りこまれていた。
私はつい叫び声を上げて距離をとった。
心臓がばくばくする。
ある意味ホラーで有名な貞子よりよっぽど心臓に悪い。
「そうか。まあ確かに家に帰らなきゃな」
もう夜なのに街灯が少なくて、あまりよく顔が見えなかったけど、たぶんすごく寂しそうにしてる。
なんか怯えてばっかりで悪いことしたなぁと思った。
なんだかんだヤクザさんは優しい人っぽいからなおさらだ。
……ただ、やっぱ顔は怖いけど。
「そうですね。いま、何時ですか?」
「ん、8時くらいかな」
結構遅い時間帯だった。
いくら門限がないとは言っても、連絡入れてないから親も心配しているだろう。
今携帯はカバンの中に入ってるから確認できないけど、メールが届いていると思う。
私とヤクザさんは二階に戻った。
微妙に乾ききっていない制服をヤクザさんは慣れた手つきで畳んで私に返してくれた。
カバンはソファの横に立てかけてあった。
帰る準備ができると、ぴょんと肩に何かが乗ってきた。
インコだった。
「随分と懐いてることで」
ヤクザさんは控えめに笑う。
「すごい突いてきますけどね……」
首につんつんと攻撃してからインコはタンスの上に逃げていく。
嫌われてるの間違いでは……?
「えっと、いろいろありがとうございました」
「いや、俺の不手際だ。そうそう、さっきも言ったけどその服やるよ。似合っててかわいいしな」
大きな手が私の頭を撫でる。
「うあっ、さようなら!」
私は勢いよく頭を下げて店を飛び出した。