起きたら、そこは川だった。もう、三日も寝ていた。それさえ、気づかない、幸せな昼だった。
 「涼」
林太郎の声が遠くで聞こえる。
「もう、現実逃避、やめようぜ」
「おいおい、これを現実逃避と言ったらお終いだゼ」
俺が答える。
「意味わかんねーけど、ちょっとはわかる」
二人、笑う。
 「そろそろ、学校、戻るか」
と、俺が言ったらチャイムが鳴った。また、二人、笑う。
 ゆっくりと、川原から中学に向けて歩く途中、幸せをかみ締めていた。俺は何でこんなに幸せなんだろうって思った。
 俺には彼女もいた。玲奈って言って、すごく可愛くて、、、うん、可愛い。けれども、林太郎との時間とは変えがたかった。それだけ、林太郎の存在は大きい。生まれた時からずっと一緒。双子みたいに育ってきたから。
 そんな、バカみたいに大事なことを考えていると学校に着いた。玲奈がふてくされてるから、キスをした。みんながどよめく。嘘、嘘。いつものことだから、誰も気にしない。頬が染まる、玲奈を見て、やっぱ可愛いな、と思っちゃた。瞬間、林太郎より大事に思えた。瞬間、ね?
 学校が終わると、林太郎と早足で、秘密基地に行った。なぜだか、啓太と悠馬が着いてきた。まあ、いつものことさ。いずれここは秘密じゃなくなるのかもしんない。いいや、そんなことはない。みんな、口は堅いさ。いや、そうでもないかも…。自問自答。
 「なあ、涼?玲奈のどこがいいんだよ?」
はあ、と俺はため息をつく。いつも聞かれるんだ。けど、答えない。だって、言ったって、玲奈の可愛さをわかる奴はここにはいないもの。
 とりあえず、パンツになって、川を泳いだ。学校帰りの女子がキャーキャーうるせー。林太郎見たさに、みんな立ち止まる。
 林太郎は確かにカッコイイ。だからみんな、何で林太郎がいつも俺といるか、疑問に思ってるだろう。考えすぎか。
 「涼!」
ふとした瞬間に林に呼ばれ、ハッとした瞬間水をかけられた。
「やったな!」
「俺は、お前のこと、ずーっと好きだからな。忘れんな」
また、ふとした瞬間にやられた。
「俺もだよ。これからも。ずーっと。玲奈よりも、な」
「それはよくないゼ」
二人、笑う。啓太と悠馬は、入れないでいた。けど何か、みんな幸せそうだから、いっかあ。
 四人、秘密基地に戻った。持ってきた替えのパンツに履き替え、服を着る。もう、女子はいない。俺たちの貸切だ。
「やっほーい」
「ほいって何さ?」
啓太が入ってきた。
「涼くんって面白いね」
悠馬が素直な気持ちを言う。そして俺が言った。
「啓太も悠馬も、涼、でいいから。なっ林?」
「ああ」
「本当かよ?」
どっちかが言った。
「嘘ついてどうすんだよ?」
「やっぱ、涼くん…あっ涼、かっこいいよ。ずーっと思ってた」
啓太の言葉に悠馬が頷く。
俺は、まんざらでもなかった。
 「さっ帰ろーゼ」
俺の言葉に一斉にみんな準備する。林の家は俺ん家の隣だ。二人、無言で歩く。ただ歩く。中学最後の夏を、かみ締めるように。歩く。林が何考えてるか、なんとなくわかった。俺は、幸せが怖くなかった。そうじゃなきゃ、生きてけないもの。そんなことを考えてた。林もきっと同じさ。川の流れのように、俺たちは流されて生きていた。それは、林も、啓太も悠馬もきっと。けど、ちゃんと根は生えていた。そうじゃなきゃ、生きてらんない。

 さあ、夏の始まりさ!