そんな気持ちを紛らすために、積極的に優香に話をふる。


そんな時・・・・・


バスが次の停留所で停まると、一人の男が乗ってきた。

ジーパンにスウェットを羽織って、ニットの帽子を目の上の辺りまで被っている。

扉が閉まり、バスが再び走りだす。


しかし、男はその場で立ったまま動かない。

しばらくすると、上着のポケットに手を突っ込み、そのまま運転手の隣まで歩いていく。

「走行中に歩くのは危ないですよ。」


運転手が注意する。


すると、


「騒ぐんじゃねえぞ!!」

男はポケットから手を抜き出すと、手に握ったものを運転手のこめかみに突き付けた。

小型の包丁だ。

諒も思わず男の方を見ていた。

包丁の刃先にある、運転手のこめかみが震えているのが諒にもわかった。


男は乗客一人一人の目を見て回っている。


諒の番が来た。

男と視線が合う。

一瞬のはずだったのに、何十秒にも感じられた。

腿の上に置いていた手を優香が握ってきた。

優香の手が震えている。