〜冬翔side〜


俺は教室に戻って早退する準備をして学校を出た。


「つーか、何なんだよアイツ……」


やけに青空は聞き出そうとはしてくるし、春翔はひやかすし、桃花は……今日は1回も話していない。……もしかしてこの前俺がしたことが原因か?俺は公園のベンチに座り、本を読んで春翔が帰る時間を待った。家の鍵はいつも春翔が管理しているから待たなければならない。すると、俺の前に誰かがきた。


「……冬翔? なにしてんの、こんなところで。……あっ、もしかしてまた早退したの?」


この声……。なんでだ?なんで……いるんだよ。


「……桃花……」


桃花はクスッと笑い、俺の隣に座った。……というか。


「……なぁ、なんで桃花はここにいるんだ?」


「あー……、私も早退したの。冬翔と同じ仮病で、ね」


「ふーん。桃花が仮病使うなんて珍しいな」


「まぁね。……冬翔と話したいこと、沢山あるし。てか、やっぱりここにいたんだね。ここ好きなの?」


「あぁ。日陰が沢山あるから本も読みやすいし。……それで、話したいことってなんだ?」


俺は本にしおりを挟み、鞄にしまった。春翔が帰ってくるまで、あと3時間くらいはある。


「昨日……私に『好き』っていってたじゃない? あれって……」


やっぱり気にしていたのか。もちろん本音だ。でも今、桃花にまた『好きだ』といっても断られるだろう。


「あー、あれか。……嘘だよ。桃花を慰めるための」


「え……? 嘘なの……?」


桃花の鞄を持っている手には、とても力が入っている。怒ってるよな……。


「――バカッ!!」


「いってぇ……。おい待てよ、……桃花!!」


桃花は持っていた鞄で俺の顔面を殴り、公園を出ていった。……桃花……なんでそんなに怒ってんだ?桃花が好きな人は春翔のはず……。なぜだろう。






そうやって考え続けていたら、春翔が公園の前を通った。……もうこんなに時間が経っていたのか。俺は鞄を持って春翔に声をかけた。


「あっ、冬翔! ごめん、鍵渡すの忘れてたね」


春翔はそういって頭を掻いていた。


「……なぁ春翔。ちょっと相談したいことが――」


「うん、いいよ! なんでも相談して!!」


反応はえーな……。


「実はさっき、桃花と会ってさ……」


俺は桃花とあったことを話した。春翔は真剣に話を聞いてくれている。初めてだよな、春翔に相談するのは。


「そんな……桃花にそんなこといっちゃったの!? そりゃあ怒るよ、『好きだ』っていわれて、もし桃花が冬翔のことを好きだとしたら相当傷ついてるよね……」


「だけど……桃花が好きなのは春翔だろ?」


「実はあのあと桃花からメールがきてさ、『私が好きなのは春翔じゃないの』って」


「……は? それって、青空に勇気を持たせるために……? そうだとしても桃花、泣いてたし……」


「うん、そうなんだけどフラれたショックで泣いちゃったらしい……」


意味がわからない……。2人で話していると、いつの間にか家についていた。


「……あとで桃花に謝らないとな……」


「じゃあ僕が桃花に電話しておくよ。……たぶん冬翔が電話かけても、すぐ切られると思うし」


「だよな。……よろしくな、春翔」


そういって俺は自分の部屋に入って着替えた。……もし俺があの時『あぁそうだよ。本気だ』といっていたら?桃花はどう思っていたのだろうか……。


「クソッ……、なんかもうイライラして落ち着かねー!!」


そういって俺は近くにあったものを蹴った。


「!! ……いてぇ」


俺が今蹴ったのは自分の机の脚だった。






〜桃花side〜


もう……なんなのよ!!昨日の冬翔の告白は嘘だったの!?でも……だったらなんで抱きしめたりなんかしたの……?私の勘違い?……冬翔最低……!ベッドに潜って親に知られないように泣いていると、手に持っていた携帯が震えた。


「もしもし、桃花です……」


『あっ、桃花! 今ちょっと話せる?』


「うん。春翔どうしたの?琉奈となにか……」


『そうじゃなくて、……冬翔のこと』


「……冬翔のこと?」


『うん。冬翔から聞いたよ、桃花……ごめんね、傷ついたよね? 嘘だなんていわれて』


「……うん。私、そのあと冬翔の顔面を鞄で殴っちゃって……。痛かったかなぁ……?」


『大丈夫だよ、冬翔怒ってないし! ……それで桃花、明日冬翔と仲直りする?』


「したい……けど、許してくれるかなぁ?」


『うん! 冬翔も謝りたいっていってたよ!!』


「……そっか。春翔、私頑張るね!」


『うん、頑張って! ……あっ、桃花ちょっとまだ切らないで?』


「? なに?」


『あのさ、桃花は……冬翔のこと、好きなの? 異性として』


「!! えっと……うん、好きだよ」


『そっか♪ 安心して、冬翔達にいわないから! じゃあまたね!』


「……明日は頑張らなきゃ……」


私は携帯を枕元に置いて寝た。次の日の休み時間。私は教室を出ようとした冬翔に話しかけた。


「――あっ、冬翔……!!」


「! ……桃花?」


「あの……、ちょっときて!」


私は冬翔の腕を掴んで、階段の踊り場にいった。


「……冬翔昨日はごめんね、鞄で顔面殴っちゃって……」


「俺こそごめんな。……嘘とかいって」


冬翔は視線が右に左に動いている。……いつも素直じゃない冬翔が謝ってくるなんて、なんか不思議だな……。


「……ふふっ」


「? ……なに笑ってんだよ」


「なんでもなーい♪」


私はそういって教室に戻った。






ある日の昼休み。


「あれ、桃花お弁当食べないの?」


春翔、冬翔、琉奈と中庭にいると琉奈がそういった。


「うん、最近ちょっと太っちゃってさー……ダイエット中なの☆」


「そうかな? むしろ桃花は痩せてると思うけど……」


「男には女の子の気持ちはわかりませんよーだっ!!」


そういって私は舌を出した。そしてチャイムが鳴って教室に戻っているとき。


「……桃花」


「ん? なに? 冬翔」


「……あまり無理すんなよ」


「わかってるって!!」


そういった日から3日後の男女合同の体育。


「ねぇ桃花……大丈夫? 顔色悪いよ、やっぱり休んだ方が……」


バレーの試合をしていると、琉奈がそういってきた。


「うん、大丈夫大丈夫! ほら、試合に集中集中〜!!」


琉奈を安心させるため、私は笑顔を見せた。運動してもっと痩せないと……!!そう思っていると。


「――桃花っ、ボールきてるよ!!」


「――え?」


私が気づいた頃には、もう遅かった。ボールは私の顔面に見事ヒットした。


「……うっ……」


「桃花!! 大丈夫!?」


目を開けると女子達が私を囲んでいた。


「うん、大丈――……」


その時、頭がクラッとして私は倒れた。






〜冬翔side〜


「……ねぇ冬翔。桃花さ、やっぱり無理してるよねぇ?」


バスケの試合の休憩時間。春翔がそう聞いてきた。


「あぁ。桃花はいつも『大丈夫大丈夫』っていって……」


そう話していると、女子達の方から悲鳴が聞こえた。


「――桃花ー!!」


桃花!?桃花に何かあったのか……!?俺はいつの間にか女子達の方へ走っていた。


「桃花!! ……青空、何があったんだ!?」


「そ、それが……ボールが顔面に当たって『大丈夫』っていった瞬間にバタッて――」


「チッ……だからいったのに……!!」


俺は桃花を抱きかかえて、保健室へいった。


「――先生! いるか!?」


「! どうしたんだ、その子は!!」


「あぁ、体育で倒れました……」


俺は近くにあったベッドに寝かせて、先生に事情を話した。


「……うん、貧血だね。ダイエットで昼食を食べていないことが原因だ。……ちょっと出かけてくるから後は任せたよ。……鍵閉めたりとかするなよ? 冬翔くん」


「……しねぇよ」


そういって先生は保健室を出ていった。






〜桃花side〜


「ん……」


あれから30分後。私は目が覚めたとき、保健室のベッドにいた。……あぁそっか、私倒れたんだった……。


「……お、目が覚めたか」


声がする方を見てみるとそこには、コーヒーを飲んで本を読んでいる冬翔がいた。


「冬翔……? もしかして運んでくれたの……?」


「あぁ、つーかお前全く重くなかったぞ? 腕も細いし」


「そっか。ありがとね、運んでくれて」


「……ったく、迷惑なんだよこっちは。心配かけやがって。だから無理すんなよっていったのに。……ま、桃花が無事でよかったけどな」


そういって冬翔は少しだけ笑った。……素直じゃないなぁ。


「あ、もう授業戻っていいよ?」


「いや、先生に任されてるからまだここにいる」


「ん、そっか。……冬翔?」


冬翔は私のベッドの近くにきて、私の頭を撫でてきた。


「……俺、やっぱ限界かも」


「え? ――わっ」


そういって冬翔はベッドに乗ってきた。


「なっ……冬翔!?」


「好きだ。お前が好きすぎて好きすぎて……俺が俺でいられない」


冬翔……?いつものクールな冬翔と違う冬翔に少し、ドキッとした。


「冬……翔……? どうしたの……?」


「桃花……好きだ」


冬翔はそういって顔を近づけてきた。


「――っ」


「桃花〜っ、起きてる〜?」


その時、保健室のドアが勢いよく開いて誰かが入ってきた。この声は……。


「チッ……、春翔か」


「あっ、冬翔! 桃花元気?」


「あぁ、元気だぞ。……家に帰ったら俺の部屋にこい」


「へ? ……うん。そろそろチャイム鳴るし、またあとでね♪」


春翔はそういって保健室を出ていった。


「……あのさ、桃花」


「うん。なに?」


「今度の日曜に2人で映画観に行かねぇか?」


「……え」


それってもしかして、……デート!?


「だめか? だめなら春翔達にこのチケット渡すけど」


「ううん、いく!」


「じゃあこれ、映画館のチケット。詳しいことはあとでな。俺、教室に戻るから」


「うん、ありがと!」


冬翔はそういって保健室を出ていった。






〜冬翔side〜


俺なにやってるんだよ……。何でさっき……。


『好きだ。お前が好きすぎて好きすぎて……俺が俺でいられない』


……っ、自分でいったのに恥ずかしい。


「……ただいま」


「おかえり冬翔! 今日は早かっ――」


「春翔。俺の部屋にこい」


「……ほぇ?」


俺は春翔の襟元を掴み、俺の部屋に連れていった。


「どうしたの? 冬翔」


「お前なー……状況を考えろよ」


「……えっ? えっ?? なんのこと?」


「だからー、……なんで桃花にキスしようとした時にくるんだよ」


「そ、そんなこといわれたって……って、キス!? しようとしてたの!?」


「あぁ、そうだ。今度桃花と映画観に行くことになったんだけど、どんな服を着ればいいか?」


「んー……クールに青とか黒じゃない?」


「そうか。ありがとな」


そういって俺は春翔を部屋から出した。






〜桃花side〜


家に帰って勉強をしていると、冬翔から電話がきた。


『桃花? 俺だけど』


「……オレオレ詐欺? 冬翔」


『違ぇよ。明日、いつもの駅で10時だ。またな』


「あ、ちょっと待っ……切れた……」


聞きたいことあったけど、まあいっか。翌日、私は待ち合わせ場所にいった。冬翔は珍しく早くきていた。……カッコいー……。


「おーい、冬翔〜! お待たせ!」


「ん。じゃあいくか」


「うん!」


私達は電車に乗って映画館にいった。……ていうかこの映画館、チケットがないと入れないらしいところだけどどこで手にいれたんだろう……。


「桃花、どれみたい?」


「うーん……じゃああれ!」


私が見たいといったのは恋愛系のホラー。私達はチケットを店員に渡し、中にはいった。売店で食べ物等を買って席に座った。数分後、映画が上映された。見たい映画が見れてよかった〜、しかも好きな人ととか超嬉しい……。そう思いながら右に置いてある飲み物をとって飲んだ。


「……桃花、それ……俺の」


「え!? あっ、本当だ、コーヒー……! ご、ごめん……」


「いや、大丈夫……」


冬翔はそういって腕で顔を隠した。……あ、間接キス……!!私は恥ずかしくなって顔や体が熱くなり、じぶんのジュースを飲んで体を冷ました。それから30分後……。


「……冬翔、寝てる……?」


隣に座っている冬翔は腕を組んで眠っていた。すると冬翔はだんだんこっちに傾いてきて、私の肩に頭が乗っかった。


「ひゃっ、……冬翔?」


……しょうがない、寝かせておこう。……髪サラサラだな……睫毛も長くてキレイ……って、映画見ないと!それから映画が終わるまでずっと冬翔は眠っていた。






「――冬翔ー、起きて! 映画終わったよ!」


「ん……。じゃあ出るか……」


冬翔は大きく伸びをしてそういった。冬翔、これからどこに連れていくんだろう。そう思っていると冬翔はこっちを向いて手を差し出してきた。


「……ん」


「……ん?」


「手繋ぐかってことだ。……つか、いわせんじゃねぇよ、恥ずかしいだろ」


「……えへへっ、……ありがと」


「……おぅ」


私はそういって冬翔の手を握った。冬翔は素直じゃないけど……やっぱり私、冬翔が好きだな……。そして夕方。冬翔は家まで送ってくれた。


「冬翔、今日はありがとね。楽しかった!」


「あぁ、俺も楽しかった。またな」


「うん、またね!」


私は冬翔に手をふって家に入った。そういえば私達って一応両想い……なんだよね?冬翔、『好き』って保健室でも、フラれて泣いた時にもいってたし……。


「――告白、か……」