私は授業中、冬翔くんにメモ帳に【冬翔くんの好きな人って誰?】と書いて渡した。冬翔くんは舌打ちしたあと、メモ帳になにかを書いて渡してきた。……【教えねぇ。あいつらにどうせいうんだろ】と乱筆で書かれていた。【大丈夫、2人だけの秘密にするから!!】と書いた。


「チッ……。ちょっと保健室いってくる」


そういって冬翔くんは先生に許可を得て教室を出た。


「ありゃりゃ。冬翔怒っちゃったねぇ……」


春翔くんは苦笑いをしてそういった。


「冬翔、なにかイラついてたりするとすぐに保健室に仮病使っていくから……」


「そうなんだ……でも、絶対桃花のこと好きだよね〜」


「うん、家でずっと桃花とメールしてるし、たまに笑ってるし」


桃花は……?桃花は冬翔くんが桃花のことが好きってこと、知ってるのかな……。私は昼休みに桃花と屋上へいった。


「なんか懐かしいね……昨日のことなのに」


桃花は屋上をぐるりと見渡してそういった。


「ねぇ桃花。まだ春翔くんにフラれたことショック……だよね」


「うん、……ちょっとだけね」


そういって桃花は笑った。






「まあ……まだ高校生だもの、出会いはまだ沢山くるよね」


「うん。琉奈はさ、春翔と付き合って何したい? ……やっぱりデートとか?」


そういえば……考えてなかったな、そんなこと。


「桃花は? 桃花は付き合ったら、なにがしたい?」


「私は……好きな人とずっと一緒にいたいな」


「……そっか。……あれ?」


「えっ? なに?」


私は視線を感じて振り返った。だけどそこには誰もいない。


「なんかさっき、……誰かいたような……」


私達は屋上を出て階段を降りていると、壁に背中をつけている春翔くんがいた。


「春翔……?」


「あはは……バレちゃったか」


春翔くんは首の後ろを掻いて笑った。


「桃花、昨日僕が振ったことショックで落ち込んでるのかなーって思って様子見にきたんだけど……」


「……春翔――……っ」


隣にいる桃花は、突然泣き出した。


「春翔っ……心配してくれてたの……?」


「うん! 明るくないと桃花らしくないじゃん! ほら、涙ふいて!」


そういって桃花に春翔くんはポケットからハンカチを出して、桃花に差し出した。


「ありが……とう……。春翔……これからもずっと友達でいてくれる……?」


「うんっ、もちろん!」


「春翔……、本当にありがとう……!」


春翔くん、本当に誰にでも優しいな……。桃花もずっと友達でいられてよかったね……!






〜冬翔side〜


俺は教室に戻って早退する準備をして学校を出た。


「つーか、何なんだよアイツ……」


やけに青空は聞き出そうとはしてくるし、春翔はひやかすし、桃花は……今日は1回も話していない。……もしかしてこの前俺がしたことが原因か?俺は公園のベンチに座り、本を読んで春翔が帰る時間を待った。家の鍵はいつも春翔が管理しているから待たなければならない。すると、俺の前に誰かがきた。


「……冬翔? なにしてんの、こんなところで。……あっ、もしかしてまた早退したの?」


この声……。なんでだ?なんで……いるんだよ。


「……桃花……」


桃花はクスッと笑い、俺の隣に座った。……というか。


「……なぁ、なんで桃花はここにいるんだ?」


「あー……、私も早退したの。冬翔と同じ仮病で、ね」


「ふーん。桃花が仮病使うなんて珍しいな」


「まぁね。……冬翔と話したいこと、沢山あるし。てか、やっぱりここにいたんだね。ここ好きなの?」


「あぁ。日陰が沢山あるから本も読みやすいし。……それで、話したいことってなんだ?」


俺は本にしおりを挟み、鞄にしまった。春翔が帰ってくるまで、あと3時間くらいはある。


「昨日……私に『好き』っていってたじゃない? あれって……」


やっぱり気にしていたのか。もちろん本音だ。でも今、桃花にまた『好きだ』といっても断られるだろう。


「あー、あれか。……嘘だよ。桃花を慰めるための」


「え……? 嘘なの……?」


桃花の鞄を持っている手には、とても力が入っている。怒ってるよな……。


「――バカッ!!」


「いってぇ……。おい待てよ、……桃花!!」


桃花は持っていた鞄で俺の顔面を殴り、公園を出ていった。……桃花……なんでそんなに怒ってんだ?桃花が好きな人は春翔のはず……。なぜだろう。






そうやって考え続けていたら、春翔が公園の前を通った。……もうこんなに時間が経っていたのか。俺は鞄を持って春翔に声をかけた。


「あっ、冬翔! ごめん、鍵渡すの忘れてたね」


春翔はそういって頭を掻いていた。


「……なぁ春翔。ちょっと相談したいことが――」


「うん、いいよ! なんでも相談して!!」


反応はえーな……。


「実はさっき、桃花と会ってさ……」


俺は桃花とあったことを話した。春翔は真剣に話を聞いてくれている。初めてだよな、春翔に相談するのは。


「そんな……桃花にそんなこといっちゃったの!? そりゃあ怒るよ、『好きだ』っていわれて、もし桃花が冬翔のことを好きだとしたら相当傷ついてるよね……」


「だけど……桃花が好きなのは春翔だろ?」


「実はあのあと桃花からメールがきてさ、『私が好きなのは春翔じゃないの』って」


「……は? それって、青空に勇気を持たせるために……? そうだとしても桃花、泣いてたし……」


「うん、そうなんだけどフラれたショックで泣いちゃったらしい……」


意味がわからない……。2人で話していると、いつの間にか家についていた。


「……あとで桃花に謝らないとな……」


「じゃあ僕が桃花に電話しておくよ。……たぶん冬翔が電話かけても、すぐ切られると思うし」


「だよな。……よろしくな、春翔」


そういって俺は自分の部屋に入って着替えた。……もし俺があの時『あぁそうだよ。本気だ』といっていたら?桃花はどう思っていたのだろうか……。


「クソッ……、なんかもうイライラして落ち着かねー!!」


そういって俺は近くにあったものを蹴った。


「!! ……いてぇ」


俺が今蹴ったのは自分の机の脚だった。






〜桃花side〜


もう……なんなのよ!!昨日の冬翔の告白は嘘だったの!?でも……だったらなんで抱きしめたりなんかしたの……?私の勘違い?……冬翔最低……!ベッドに潜って親に知られないように泣いていると、手に持っていた携帯が震えた。


「もしもし、桃花です……」


『あっ、桃花! 今ちょっと話せる?』


「うん。春翔どうしたの?琉奈となにか……」


『そうじゃなくて、……冬翔のこと』


「……冬翔のこと?」


『うん。冬翔から聞いたよ、桃花……ごめんね、傷ついたよね? 嘘だなんていわれて』


「……うん。私、そのあと冬翔の顔面を鞄で殴っちゃって……。痛かったかなぁ……?」


『大丈夫だよ、冬翔怒ってないし! ……それで桃花、明日冬翔と仲直りする?』


「したい……けど、許してくれるかなぁ?」


『うん! 冬翔も謝りたいっていってたよ!!』


「……そっか。春翔、私頑張るね!」


『うん、頑張って! ……あっ、桃花ちょっとまだ切らないで?』


「? なに?」


『あのさ、桃花は……冬翔のこと、好きなの? 異性として』


「!! えっと……うん、好きだよ」


『そっか♪ 安心して、冬翔達にいわないから! じゃあまたね!』


「……明日は頑張らなきゃ……」


私は携帯を枕元に置いて寝た。次の日の休み時間。私は教室を出ようとした冬翔に話しかけた。


「――あっ、冬翔……!!」


「! ……桃花?」


「あの……、ちょっときて!」


私は冬翔の腕を掴んで、階段の踊り場にいった。


「……冬翔昨日はごめんね、鞄で顔面殴っちゃって……」


「俺こそごめんな。……嘘とかいって」


冬翔は視線が右に左に動いている。……いつも素直じゃない冬翔が謝ってくるなんて、なんか不思議だな……。


「……ふふっ」


「? ……なに笑ってんだよ」


「なんでもなーい♪」


私はそういって教室に戻った。






ある日の昼休み。


「あれ、桃花お弁当食べないの?」


春翔、冬翔、琉奈と中庭にいると琉奈がそういった。


「うん、最近ちょっと太っちゃってさー……ダイエット中なの☆」


「そうかな? むしろ桃花は痩せてると思うけど……」


「男には女の子の気持ちはわかりませんよーだっ!!」


そういって私は舌を出した。そしてチャイムが鳴って教室に戻っているとき。


「……桃花」


「ん? なに? 冬翔」


「……あまり無理すんなよ」


「わかってるって!!」


そういった日から3日後の男女合同の体育。


「ねぇ桃花……大丈夫? 顔色悪いよ、やっぱり休んだ方が……」


バレーの試合をしていると、琉奈がそういってきた。


「うん、大丈夫大丈夫! ほら、試合に集中集中〜!!」


琉奈を安心させるため、私は笑顔を見せた。運動してもっと痩せないと……!!そう思っていると。


「――桃花っ、ボールきてるよ!!」


「――え?」


私が気づいた頃には、もう遅かった。ボールは私の顔面に見事ヒットした。


「……うっ……」


「桃花!! 大丈夫!?」


目を開けると女子達が私を囲んでいた。


「うん、大丈――……」


その時、頭がクラッとして私は倒れた。






〜冬翔side〜


「……ねぇ冬翔。桃花さ、やっぱり無理してるよねぇ?」


バスケの試合の休憩時間。春翔がそう聞いてきた。


「あぁ。桃花はいつも『大丈夫大丈夫』っていって……」


そう話していると、女子達の方から悲鳴が聞こえた。


「――桃花ー!!」


桃花!?桃花に何かあったのか……!?俺はいつの間にか女子達の方へ走っていた。


「桃花!! ……青空、何があったんだ!?」


「そ、それが……ボールが顔面に当たって『大丈夫』っていった瞬間にバタッて――」


「チッ……だからいったのに……!!」


俺は桃花を抱きかかえて、保健室へいった。


「――先生! いるか!?」


「! どうしたんだ、その子は!!」


「あぁ、体育で倒れました……」


俺は近くにあったベッドに寝かせて、先生に事情を話した。


「……うん、貧血だね。ダイエットで昼食を食べていないことが原因だ。……ちょっと出かけてくるから後は任せたよ。……鍵閉めたりとかするなよ? 冬翔くん」


「……しねぇよ」


そういって先生は保健室を出ていった。






〜桃花side〜


「ん……」


あれから30分後。私は目が覚めたとき、保健室のベッドにいた。……あぁそっか、私倒れたんだった……。


「……お、目が覚めたか」


声がする方を見てみるとそこには、コーヒーを飲んで本を読んでいる冬翔がいた。


「冬翔……? もしかして運んでくれたの……?」


「あぁ、つーかお前全く重くなかったぞ? 腕も細いし」


「そっか。ありがとね、運んでくれて」


「……ったく、迷惑なんだよこっちは。心配かけやがって。だから無理すんなよっていったのに。……ま、桃花が無事でよかったけどな」


そういって冬翔は少しだけ笑った。……素直じゃないなぁ。


「あ、もう授業戻っていいよ?」


「いや、先生に任されてるからまだここにいる」


「ん、そっか。……冬翔?」


冬翔は私のベッドの近くにきて、私の頭を撫でてきた。


「……俺、やっぱ限界かも」


「え? ――わっ」


そういって冬翔はベッドに乗ってきた。


「なっ……冬翔!?」


「好きだ。お前が好きすぎて好きすぎて……俺が俺でいられない」


冬翔……?いつものクールな冬翔と違う冬翔に少し、ドキッとした。


「冬……翔……? どうしたの……?」


「桃花……好きだ」


冬翔はそういって顔を近づけてきた。


「――っ」


「桃花〜っ、起きてる〜?」


その時、保健室のドアが勢いよく開いて誰かが入ってきた。この声は……。


「チッ……、春翔か」


「あっ、冬翔! 桃花元気?」


「あぁ、元気だぞ。……家に帰ったら俺の部屋にこい」


「へ? ……うん。そろそろチャイム鳴るし、またあとでね♪」


春翔はそういって保健室を出ていった。


「……あのさ、桃花」


「うん。なに?」


「今度の日曜に2人で映画観に行かねぇか?」


「……え」


それってもしかして、……デート!?


「だめか? だめなら春翔達にこのチケット渡すけど」


「ううん、いく!」


「じゃあこれ、映画館のチケット。詳しいことはあとでな。俺、教室に戻るから」


「うん、ありがと!」


冬翔はそういって保健室を出ていった。






〜冬翔side〜


俺なにやってるんだよ……。何でさっき……。


『好きだ。お前が好きすぎて好きすぎて……俺が俺でいられない』


……っ、自分でいったのに恥ずかしい。


「……ただいま」


「おかえり冬翔! 今日は早かっ――」


「春翔。俺の部屋にこい」


「……ほぇ?」


俺は春翔の襟元を掴み、俺の部屋に連れていった。


「どうしたの? 冬翔」


「お前なー……状況を考えろよ」


「……えっ? えっ?? なんのこと?」


「だからー、……なんで桃花にキスしようとした時にくるんだよ」


「そ、そんなこといわれたって……って、キス!? しようとしてたの!?」


「あぁ、そうだ。今度桃花と映画観に行くことになったんだけど、どんな服を着ればいいか?」


「んー……クールに青とか黒じゃない?」


「そうか。ありがとな」


そういって俺は春翔を部屋から出した。