「やっぱり! おいしーい♪ ありがとね、琉奈ちゃん!」


そういって春翔くんは私にジュースを返した。こっ、これって、間接キッ……!?そう思いながらもジュースを飲んだ。すると、目の前に人らしきものが立った。


「…………」


それは沢山の風船とチラシを持っているクマの着ぐるみだった。着ぐるみは春翔くんにピンク色の風船を差し出した。しかも春翔くんはその風船をもらったのだ。


「…………ぷっ」


冬翔くんはそれを見て思わず吹き出した。


「春翔……小学生と思われてんじゃね?」


「そ、そんなわけないじゃん! ……あっ、次あれに乗ろうよ!」





太陽が沈みかけた頃にはもう遊園地にきていた人が帰り始めていた。


「次で最後かな……琉奈ちゃん、何に乗る?」


「……じゃあ、あれ!」


私が指を差したのは観覧車。


「観覧車かぁ……冬翔も乗る?」


「帰る。……高いの無理だし」


「えー、じゃ、僕と琉奈ちゃんでいってくるね、冬翔は先に帰ってていいから。はい、鍵」


「んじゃ、またな」


そういって冬翔くんは遊園地を出ていった。


「それじゃ、いこっか」


私達はあまり人が乗っていない観覧車に乗った。







「……あのさ、琉奈ちゃん。冬翔のこと……どう思う?」


春翔くんは窓から景色を見ながらそういった。


「……えっ? ……どうって……?」


「好きか普通か、嫌いか……どう思う?」


「うーん……普通…………かな」


「そっか……。よかった“普通”で」


?……春翔くん……どうしたんだろう。


「じゃあさ……」


すると隣に座っていた春翔くんが私の方に近づいてきて、手を握ってきた。


「……僕と冬翔……どっちが好き?」


春翔くんの顔は暗くて表情はよくわからない。だけど、少しだけ赤くて真剣な瞳だった。


「え……っと……ひゃっ」


観覧車が揺れて、私は春翔くんに抱きついてしまっていた。


「あっ……ごめん……」


「ううん、大丈夫……もうすぐで1周するね」


春翔くんはまだ私の手を握っていた。でも斜め下を向いていて、やっぱり表情はわからない。観覧車を降りたあと桃花にあげるお土産と自分達のお土産を買った。


「あ……琉奈ちゃん、送るよ。もう暗いし」


「うん、ありがと」


私達は電車を降りて少しだけ暗い道を歩いた。






「あっ、あのさ……さっきいってたことだけど……」


「あぁっ、それね! 気にしなくていいよ!! そっ、そうだっ、メアド交換しよ!」


「え? う、うん」


私はバッグから携帯を出してメアドを交換した。


「……あっ、ついたよ」


「ここが琉奈ちゃんの家? 大きいね」


「そうかなぁ? 普通だと思うけど……」


「……じゃあ、また学校でね」


「……うん、またね春翔くん!」


私は春翔くんを見送って家に入った。





「そーいえばさ、土曜日のデート、何かハプニングあった?」


学校の中庭で桃花と弁当を食べていると、桃花は目をキラキラと輝かせて聞いてきた。……だから、デートじゃないって……


「特になかっ……」


『ない』といおうとした時、春翔くんに聞かれたことと間接キスをしちゃったことが頭に浮かんだ。


「……あるの? あるよね!? 話しなさいよ琉奈っ!!」


私は桃花にこの事を話した。


「へー、間接キス……。絶対好きじゃん! たぶんその質問は意識してもらうためだと思うよ?」


意識かぁ……。私、恋とかしたこともないからそういうのよくわからないや……


「春翔にドキッとか、キュンッとかはしたことある?」


……あるかも……。


「いいお嫁さんになれるよっていわれたときと登校途中にいきなり飛びつかれた時、春翔くんの私服を見た時と私のジュース飲まれた時……あと、真剣な瞳で見つめてきた時にもドキッとした……かも」


「それ絶対恋だよ!」


「えっ、それだけで……?」


「琉奈、私応援するから!」


「えぇっ、ちょっと……!!」


桃花はそういって走っていった。これって、恋……なのかなぁ……。とにかく、早く教室に戻らないと!私は弁当を持って教室に走った。






「あっ、琉奈ちゃん! 次の授業の教科書、忘れちゃったから見せて?」


教室に戻って一番に話しかけてきたのは春翔くんだった。


「あっ、うん!」


私は春翔くんの机とくっつけて教科書を見せた。本当に……一昨日のあの質問が気になるな……でも、また聞いても『気にしないで』っていわれると思うし……。私はノートに真剣にまとめている春翔くんの横顔を見つめていた。すると、春翔くんは視線を感じたのか、こっちを向いた。


「……琉奈ちゃん、どうしたの?」


「……あっ、なっ、なんでもない! よし、集中しないとねっ!!」


私はペンケースからシャーペンと消しゴムを慌てて出した。


「琉奈ちゃん、それ、……のりだよ?」


「あ……あれっ? あはははー……」


私が持っていたのはシャーペンではなく、間違いなくのりだった。わ、私ってば動揺しすぎ……。すると春翔くんはペンケースからシャーペンを取り出している私を見て、クスッと笑った。


「琉奈ちゃん、ドジで可愛いね!僕、そーゆーところ好きだよ」


「なっ……!?!?」


「青空さん、授業に集中しなさーい」


春翔くんと話していたら、先生に怒られてしまった。……そういえばこの学校に来てからだよね、先生に怒られるの。前の学校では怒られなかったのに……。春翔くんに出会ったから?……ちょっといっておこうかな。






「……ねぇ、春翔くん」


私はノートに写している春翔くんに話しかけた。


「ん? なに?」


「あ、あのさ……、いいづらいんだけどこれからは授業中に話しかけてこないで……? ほら、私達よく怒られてるし」


「そっか、わかった! その分休み時間に沢山話そうね!」


「……うん!」


これで春翔くんは授業中には話しかけてこなくなった。だけど、今度は違うことで悩むことに……。私がああいってから数日後。


「ねぇ琉奈……最近春翔と何かあったの?」


5時間目の体育の時、桃花がそう聞いてきた。


「……えっ?」


「なんか春翔がさー、『どうしよう桃花……僕、琉奈ちゃんに嫌われたかも……』って相談してきたから……何かあったのかなーって」


春翔くんそんなショックだったんだ……意外と細かいこと気にするタイプ……?今だって体調が悪いっていって保健室にいるらしいし……。


「私……春翔があんなに落ち込んでるの始めてみたかも……」


「……桃花、ちょっと抜けるね」


私は立ち上がって桃花にそういった。


「えっ? どこいくの?」


「……保健室。頭痛いから休んでるって先生に伝えといて」


「うん、わかったー」


私は賑やかな体育館を出て保健室にいった。そこは先生がいなくてシーンとしていた。奥のベッドに、ぽつんと靴が置いてあった。あそこに春翔くんがいるのだろう。私はそーっと近づいてカーテンを開けた。


「…………えっ」






そこにいたのは春翔くん。だけど、いつもの笑っている春翔くんではない。瞳から涙を流して嗚咽を繰り返している春翔くんだった。


「……春翔くん……?」


「え……琉奈ちゃ……」


春翔くんはゆっくり私の方を向いた。


「ねぇ琉奈ちゃん……正直な気持ちを聞かせて……?」


春翔くんはベッドから体を起こしてそういった。


「……僕のこと……嫌い……?」


「え……」


「僕ね、よく言われるの。『春翔は明るくって元気だけどもうちょっと静かにして』って……」


「そうだったんだ……でも私、春翔くんのこと嫌いじゃないよ」


私は少し泣き止んできた春翔くんのベッドに座り、春翔くんの頭を撫でてそういった。


「ホント……?」


「うん! この前、あんなこといってごめんね? 私、こんなに春翔くんが傷ついてるとは思わなくて……」


すると、春翔くんはホッとしたからかまた涙がぽろぽろと溢れ出した。


「……うわ〜ん、よかったよー琉奈ちゃんに嫌われでなぐでぇ〜……」


えっ、また泣いてる!?どうしよう……。


「あの……琉奈ちゃん……気持ちが落ち着くまで……抱き締めててもいい……?」


『ダメ!』といいたいけど、もっと泣いてしまうかも知れないので私はしょうがなく……


「うん、わかった、今日だけだよ……?」


といった。私は春翔くんの腕の中に15分包まれていた。







キーンコーンカーンコーン……


「あの……春翔くん。5時間目の体育終わったよ?」


「うん、琉奈ちゃんありがと。おかげで気持ちが落ち着いたよ。……戻ろっか」


そういって春翔くんはメモ帳に先生への伝言を書いて机に置き、保健室を出た。……もうそろそろで教室だけど、春翔くんはどんな顔して教室に入るんだろ……。


――ガラララッ。


「ただいま〜♪ 冬翔、次なんの授業〜?」


すごい……さっきまでの春翔くんは一体……


「あっ、琉奈おかえり〜! ……春翔、治ったの?」


「うん、実は春翔くん……泣いてた」


「え!? あの春翔が!? 今まで転んでも泣かなかった、あの春翔が!?」


「琉奈ちゃ〜ん♪」


私達が話していると、冬翔くんと話していた春翔くんがこっちにきた。


「琉奈ちゃん! 最近新しいスイーツ屋が近くにできたらしいけど、琉奈ちゃんは甘いもの好き?」


「うん、好きだよ!」


新しいレシピも覚えたいしな……


「あ! 私も〜!」


「えーっ、桃花はダメ! ……いこっ、琉奈ちゃん!」


春翔くんは私の手を引いて教室を出た。春翔くんが連れてきたのは看板に『本日オープン!』と書かれてある、スイーツ店。私達はその新しい店に入り、席に座った。






「琉奈ちゃん、パフェ好きなの?」


私がパフェのメニューを眺めていると、そう聞いてきた。


「うん、作ったことないから作ろうかなって思って……」


「そうなんだ〜……あっ、僕のチョコケーキ少しあげるから琉奈ちゃんのチーズケーキ少しちょうだい♪」


「うん、いいよ!」


なんか……こうやって春翔くんと話したり一緒にいると嫌なこととか忘れちゃうなぁ……。春翔くんはケーキを頬張っていて、とても可愛らしい。……って、男の子に『可愛い』はダメか。


「……あのさ琉奈ちゃん」


「うん?」


私がチーズケーキを食べていると、春翔くんがニコニコ笑顔でそういった。


「……もうすぐ夏休み……だね」


「? うん」


「夏休み……遊べる?」


「うん、遊べるよ」


「えっと……あの……そのっ……」


春翔くんどうしたんだろう?顔赤いし、目が泳いでるし……


「あのさっ……、2人で……花火大会にいかない……!?」


!!春翔くん、上目遣い……!可愛すぎる!!……って、返事しないと!


「うん、もちろん!」


そういった瞬間、自信なさげな顔が、ぱあぁぁっと明るくなっていった。春翔くん、表情がコロコロ変わって面白いなぁ……。


「よかった〜っ!! ムリって言われたらどうしようって思ってて……」


「大丈夫だよ、私いつも暇だからいつでも遊べるもん!」


「……じゃあ、この前の待ち合わせ場所で……いいよね?」


「うん!」


「……じゃあ食べ終わったし店でよっか」


私達は会計を済ませて外に出た。


「琉奈ちゃん、今日はありがとね、色々と……」


「ううん、大丈夫! 私、春翔くんのことが好きだから……」


「……!! えと、それって……」


「……えっ?」


私、なんか変なこといった?


「いやっ、なんでもない! じゃ、じゃあね琉奈ちゃん!」


そういって春翔くんは走って帰っていった。






私は翌日、なにか昨日あったかを聞かれた。


「桃花……私っ……」


「うん? どうしたの? お腹痛いの?」


「違うよ。……なんかさ、最近胸が苦しくなるの。春翔くんといるときとかは特に……。これって……」


「恋だね。……っはぁ〜、やっと気づいた! 遅いよ琉奈〜!! ……で、昨日は何かあった!?」


桃花は興味津々な目で聞いてきた。……私、恋してるんだ……。


「進展っていうのかわからないけど、……夏休みにある花火大会に2人でいかないかって……」


「よかったじゃん! じゃあさ、……告白……しちゃえば!?」


「え!?」


「だって春翔、絶対琉奈のこと好きだもん! フラれることなんてないよ!!」


「……うん。私、……頑張って告白してみる!」


「……うん、頑張れ! 私、……応援してるからねっ!!」


そういって桃花は教室に戻っていった。