「ただいま〜」


……っていっても、私と猫のマロしかいないんだけどね。私は私服に着替えてキッチンに向かった。


「今日はー……オムライスにしようかな」


私は材料と調理器具を取り出して、手早く作業を始めた。


「……よしっ、できた!」


今日はいつもより上手くできたから、携帯で写真を撮った。そしてキャットフードを取り出してお皿に出した。


「マロー、ご飯だよー」


マロはベッドで眠っていたが、すぐに目を覚ました。私はリビングテーブルに夕食を並べた。


「いただきまーす」


私が食べ始めたとき、マロはもう食べ終えていた。


「相変わらず、マロは食べるのが早いなー……」


私は10分で完食し、皿を洗ってお風呂に入った。そしてマロのブラッシングをした。マロの毛は毎日ブラッシングをしているからか、いつもサラサラしている。


私はマロが眠ったあと自分の部屋にいってパソコンを立ち上げた。新着メールがあるかを確認して、ブログを書いた。私は更新したあと、電気を消して寝た。



翌日。校門を抜けて歩いていると。


「るーなーちゃん♪」


いきなり後ろから誰かが飛びついてきた。






「きゃあっ!! だっ、誰!?」


「僕だよ〜♪ おはよう琉奈ちゃん!」


振り返るとそこにはニッコニコの笑顔の春翔くんがいた。


「もうっ、いきなり抱きつかないでよ! 彼氏じゃないんだから!」


「えぇ〜……あっ、桃花! おはよーっ!」


「おはよう春翔! あれ? 琉奈ちゃんと登校してきたの? ラッブラブぅ〜♪」


「ちがっ……」


「琉奈ちゃん照れてるんだ〜!? かわいー♪」


「つ、付き合ってなんかないから! ねっ、春翔くん!」


私は春翔くんに同意を求めたが、春翔くんはなにもいわなかった。


「もー、冗談だってば〜! ほら、いこっ!」


私達は走って教室にいった。


「冬翔、まだこないね〜……今日も遅刻かなぁ?」


桃花がそういって腕を組むと同時に教室の扉が開いた。


「あっ、冬翔! 今日は遅刻しなかったんだ!?」


「あぁ、今日はなんか早く目が覚めてさ」


「そういえば春翔くんと冬翔くんは一緒に暮らしてないの?」


双子なのに一緒に登校してこないなんて……


「一緒に暮らしてるんだけど冬翔が起きるの遅いし、待ってたら僕も遅刻しちゃうもん」


「あっ、冬翔遅刻しないように1日中起きてればー?」


「あ、なるほど、その手があったな」


「「ダメだから!!」」






そして4時間目の授業中、春翔くんはなにかを私のノートの端に書き始めた。書き終わったあとノートの端を見てみると、【琉奈ちゃん、今度の土曜日空いてる?】と書かれていた。私は【うん、空いてるよ!】と書いて返事を待った。


数分後【僕と冬翔と桃花と琉奈ちゃんでさ、遊園地にいかない?】と書かれていた。春翔くんの方を見てみると、肘をついてうたた寝をしていた。一方、冬翔くんはというと……


寝ちゃってる……。桃花は一生懸命先生の話を聞いてノートにまとめていた。


「えー、ではこの英文を……中川春翔! 訳してみなさい」


「……ほぇ……??」


春翔くんは目を覚ましたが、何を聞かれたのかは分からないらしい。


「……る……琉奈ちゃん、今どこやってるの……?」


「No.2の英文を日本語に訳すんだよ」


教えてあげたおかげで、春翔くんは先生に怒られないで済んだ。



「琉奈ちゃん、さっきはありがとね、教えてくれて!」


春翔くんは授業が終わったあとすぐに話しかけてきた。


「あっ、そういえば遊園地……いく?」


「うん、もちろん!」


「やった〜!! ねぇねぇっ、琉奈ちゃんもいくって!」


春翔くんはまだ寝ている冬翔くんを無理矢理起こした。







「春翔……聞こえてるから……あ、昼食」


皆の弁当の匂いがしたからか、冬翔くんは体を起こし、鞄から弁当を出して食べ始めた。冬翔くん、いつも寝てるけど食べるときだけは早いな……。


「ごちそうさま。授業始まるまであと30分あるし、屋上いってくる」


早っ……。冬翔くんってマイペースだなぁ……。


「あっ、いたいた、春翔ー!」


「ん? 桃花、どうしたの?」


春翔くんは桃花ちゃんに呼ばれて、「ちょっといってくる」といって廊下に走っていった。私が昼食を食べ終わった頃、春翔くんと桃花ちゃんが戻ってきた。


「琉奈ちゃん、さっきの遊園地にいく件なんだけど、桃花が絶叫系ムリで3人でいくことになったんだけど、それでもいい?」


「ごめん琉奈、私お化けとかの絶叫系が苦手でさ……。3人で楽しんできなよ!」


桃花はそういって私の背中をバシッと叩いた。


「うん……おみやげ買ってくね!」


「ありがと♪ ……あっ、もうチャイムなったね、またあとでね」


桃花は私の耳元で「デート楽しんできなよ♪」といって戻っていった。デートって……、付き合ってないし……!!







そしてデート……じゃなくって、3人で遊園地にいく日。私は春翔くんに教えられた場所にいった。春翔くんは先にきていて、ベンチに座って携帯をいじっていた。


「春翔くーん! ごめん、少し遅れちゃって……」


「ううん、大丈夫! 僕も今きたところだから」


春翔くんの私服、可愛いな……。あれ、そういえば……


「春翔くん、冬翔くんは……? もしかしてまだ寝てるの?」


「いや、桃花がいってたようにずーっと起きてたから寝てることは……あっ、冬翔!」


春翔くんは冬翔くんに向かって大きく手を振った。


「やめろ、恥ずかしいだろ。つか、なんで俺まで……」


「冬翔はもっと他の人と話したりしないと!! ほら、いくよ!」


春翔くん、弟なのにしっかりしてるなぁ……。私達は遊園地に向かって歩き出した。そして10分後、とても大きい遊園地に着いた。


「さて……何から乗る?」


「うーん、私はジェットコースターかな〜」


「僕はどれでもいいけど……冬翔は?」


「帰る」


「だめ! ジェットコースターに決定! レッツゴー♪」


春翔くんは私と冬翔くんの手を握って乗り場に走った。ジェットコースターは思ったよりも怖くて、降りたあともまだクラクラしていた。そのあとはお化け屋敷にいった。私と春翔くんはずっと叫んでいたけど、冬翔くんは冷静でお化けに『こんにちはー』といっていた。







「はぁ〜っ、怖かったねお化け屋敷! あっ、あのバナナクレープ美味しそう! 僕、買ってくるけど琉奈ちゃんと冬翔は食べる?」


「うーん、私はクレープよりもジュースが飲みたいな〜」


「俺はコーヒー」


「そっか、じゃあ買ってくるね!」


そういって春翔くんはクレープ屋に走っていった。


「……ねぇ、……冬翔くん」


私はベンチに座っている冬翔くんの隣に座ろうとした。


「……座るな」


「え……」


そ、そんなこと言われても……


「冬翔くんってさ……友達いないの?」


「うっせぇな」


「……なんで……そんなに人と関わりたくないの?」


「……人が怖いから」


……人が怖いからか……


「琉奈ちゃ〜ん、冬翔〜! お待たせ〜!」


沈黙が続いてから5分後、春翔くんが戻ってきた。


「はいっ、琉奈ちゃんのジュースと、冬翔のコーヒー!」


「ありがとう、春翔くん!」


私はペットボトルのふたを開けてジュースを飲もうとしたその時。


「琉奈ちゃんのそのジュース美味しそ〜……一口飲んでいい?」


春翔くんは私の返事を待たずに私の手からボトルを取って飲んだ。






「やっぱり! おいしーい♪ ありがとね、琉奈ちゃん!」


そういって春翔くんは私にジュースを返した。こっ、これって、間接キッ……!?そう思いながらもジュースを飲んだ。すると、目の前に人らしきものが立った。


「…………」


それは沢山の風船とチラシを持っているクマの着ぐるみだった。着ぐるみは春翔くんにピンク色の風船を差し出した。しかも春翔くんはその風船をもらったのだ。


「…………ぷっ」


冬翔くんはそれを見て思わず吹き出した。


「春翔……小学生と思われてんじゃね?」


「そ、そんなわけないじゃん! ……あっ、次あれに乗ろうよ!」





太陽が沈みかけた頃にはもう遊園地にきていた人が帰り始めていた。


「次で最後かな……琉奈ちゃん、何に乗る?」


「……じゃあ、あれ!」


私が指を差したのは観覧車。


「観覧車かぁ……冬翔も乗る?」


「帰る。……高いの無理だし」


「えー、じゃ、僕と琉奈ちゃんでいってくるね、冬翔は先に帰ってていいから。はい、鍵」


「んじゃ、またな」


そういって冬翔くんは遊園地を出ていった。


「それじゃ、いこっか」


私達はあまり人が乗っていない観覧車に乗った。







「……あのさ、琉奈ちゃん。冬翔のこと……どう思う?」


春翔くんは窓から景色を見ながらそういった。


「……えっ? ……どうって……?」


「好きか普通か、嫌いか……どう思う?」


「うーん……普通…………かな」


「そっか……。よかった“普通”で」


?……春翔くん……どうしたんだろう。


「じゃあさ……」


すると隣に座っていた春翔くんが私の方に近づいてきて、手を握ってきた。


「……僕と冬翔……どっちが好き?」


春翔くんの顔は暗くて表情はよくわからない。だけど、少しだけ赤くて真剣な瞳だった。


「え……っと……ひゃっ」


観覧車が揺れて、私は春翔くんに抱きついてしまっていた。


「あっ……ごめん……」


「ううん、大丈夫……もうすぐで1周するね」


春翔くんはまだ私の手を握っていた。でも斜め下を向いていて、やっぱり表情はわからない。観覧車を降りたあと桃花にあげるお土産と自分達のお土産を買った。


「あ……琉奈ちゃん、送るよ。もう暗いし」


「うん、ありがと」


私達は電車を降りて少しだけ暗い道を歩いた。






「あっ、あのさ……さっきいってたことだけど……」


「あぁっ、それね! 気にしなくていいよ!! そっ、そうだっ、メアド交換しよ!」


「え? う、うん」


私はバッグから携帯を出してメアドを交換した。


「……あっ、ついたよ」


「ここが琉奈ちゃんの家? 大きいね」


「そうかなぁ? 普通だと思うけど……」


「……じゃあ、また学校でね」


「……うん、またね春翔くん!」


私は春翔くんを見送って家に入った。





「そーいえばさ、土曜日のデート、何かハプニングあった?」


学校の中庭で桃花と弁当を食べていると、桃花は目をキラキラと輝かせて聞いてきた。……だから、デートじゃないって……


「特になかっ……」


『ない』といおうとした時、春翔くんに聞かれたことと間接キスをしちゃったことが頭に浮かんだ。


「……あるの? あるよね!? 話しなさいよ琉奈っ!!」


私は桃花にこの事を話した。


「へー、間接キス……。絶対好きじゃん! たぶんその質問は意識してもらうためだと思うよ?」


意識かぁ……。私、恋とかしたこともないからそういうのよくわからないや……


「春翔にドキッとか、キュンッとかはしたことある?」


……あるかも……。


「いいお嫁さんになれるよっていわれたときと登校途中にいきなり飛びつかれた時、春翔くんの私服を見た時と私のジュース飲まれた時……あと、真剣な瞳で見つめてきた時にもドキッとした……かも」


「それ絶対恋だよ!」


「えっ、それだけで……?」


「琉奈、私応援するから!」


「えぇっ、ちょっと……!!」


桃花はそういって走っていった。これって、恋……なのかなぁ……。とにかく、早く教室に戻らないと!私は弁当を持って教室に走った。