「――よし、じゃあこれから学校案内……と、いきたいところなんだが……先生達はこれから朝の職員会議なんだよなー……」


私は手続きを済ませて学校案内をしてもらうことになった。でも、先生全員職員会議にでないといけない。すると、職員室の扉が開き、誰かが入ってきた。入ってきたのは小柄でほんわかとした男子。私と同じ1年生だろう。


「失礼しまーす。1年5組の熊野先生いますか?」


1年5組……?私が入る予定の組だ。すると、私の隣にいた先生が男子の方に近づいていった。2人が数分話したあと、先生がこっちをむいた。


「俺の代わりにこの男子が案内してくれることになったから。それじゃあまたあとでな!」


先生は私の背中を押して職員室から出させて、扉を閉めた。


「……それじゃ、いこっか」


「……あっ、はい……」


私はてくてくと歩いていく男子についていった。案内も終わり、男子は自分のクラスの教室に戻っていった。私はまた職員室に戻って、熊野先生1年5組の教室にむかった。


「じゃあ俺が合図出すまで待ってろよ」


そういって先生は教室に入っていった。……どんな人がいるんだろう……さっきの男子、名前聞くの忘れてたけどそのうち分かるよね、同じクラスだし。


「それじゃ、入ってきてー」


私は先生に呼ばれて教室に足を踏み入れた。








「今日からこのクラスのクラスメートになる、青空 琉奈です。よろしくお願いします」


私は自己紹介をしたあと軽くお辞儀をした。


「じゃあ、あそこの窓の近くの空いてる席に座って」


私は先生にいわれたその場所にむかって歩きだした。


「……あっ」


私の席の右側に座っている男子が私を見てそういった。あれ?この人って……


「さっき学校案内してくれた……」


「同じクラスだったんだ!? 僕、中川春翔(はると)、よろしく!」


中川くんはそういって手を伸ばしてきた。……これって……あいさつ……?


「うん、よろしくね!」


私は中川くんの手を握ってそういった。




「ねぇねぇっ、青空さんってすごいかわいくて美人だよねっ!」


授業中、中川くんが私に話しかけてきた。……美人で可愛い!?私が!?


「そ、そんなことないよ……!! 私より可愛い子、たくさんいるよ? ……あっ、一番前の席のあの子とか!!」


私は廊下側の列にいるショートヘアの女子を指差した。


「えっ、あいつ!? 桃花が!?」


「呼び捨てなんだ〜、もしかして中川くんの……」


私がそういっている途中に中川くんは私の口を手で強くおさえてきた。







「……!! ふぁっ、ふぁなひふぇよ!!」


自分でも分からない『離してよ!!』が中川くんには伝わったらしく、すぐに私の口から手を離した。


「ご、ごめん、苦しかったよね……?」


中川くんは子犬のような潤んだ瞳で私を見てきた。かっ、可愛い……!!


「ううん、大丈夫!! でも本当に彼女じゃないの?」


「桃花は小学生からの幼なじみだよ。冬翔(ふゆと)も」


“冬翔”?


「あっ、冬翔は僕のお兄ちゃん! 冬翔は他の人達には素直になれないっていうか、ツンツンしてるんだけど、家ではデレデレなの!」


中川くんと話していると、私の左側の席の男子が話しかけてきた。


「……春翔。全部聞こえてるぞ」


「あっ、そうだった、お兄ちゃん青空さんの隣だったんだ!」


へぇ〜、この人が中川くんのお兄ちゃん…………お兄ちゃん!?ってことは……双子!?


「……青空……? 誰?」


中川くんのお兄さんはあくびをしながらそういった。


「もうっ、また冬翔遅刻したの!?」


「違う。寝てた、ここで」


「「同じじゃん!」」


つい私もそうツッコんでしまった。すると、私達の後ろにきた。振り返ると、そこには理科担当の海堂先生がいた。


「授業終わったら先生のところにきなさい」


「「はぁーい……」」


「…………」








そして休み時間。私達3人は海堂先生のところにいった。


「このクラス全員分のノートとワークと実験器具、職員室まで運んでおいてね」


そういって海堂先生は教室から出ていった。私はノート、中川兄はワーク、中川弟は実験器具を持って教室を出た。


「もうっ、中川くんのせいで……」


「「え? どっち?」」


2人は振り向いてそういった。そうだった、どっちも“中川”だ……


「えと……春翔くんの方」


「えー僕!? なんで!?」


「だって、最初に話しかけてきたのは春翔くんじゃん」


「うっ、そうだった……。……あっ、桃花ー!!」


春翔くんは実験器具を片手で持って手をふった。


「……!! 危ない!!」


女の子がそういった瞬間、冬翔くんが私にワークを持たせて落ちそうになっている実験器具を間一髪で支えた。


「ハァ……春翔、危ないだろ」


「ごめん冬翔……」


よかった〜、落ちなくて……と、思った瞬間。


バサササッ……!!


私が持っていたノートと冬翔くんが持たせてきたワークが重さに耐えられなくなって、私達の前に散らばった。


「青空……お前なー……」


冬翔くんが冷やかな目で私を見ている。


「す、スミマセンっ……」


私達3人で黙々とノートとワークを拾っていると。







「もー、大丈夫? 私も手伝うよ!」


さっき春翔くんが手を振って呼んでいた桃花さんがこっちにきて手伝ってくれた。おかげで早くノートとワークを分けることができた。


「ふぅっ、これで全部だよね! ……あっ、私、西園寺 桃花! 春翔達の幼なじみ。よろしくね、琉奈ちゃん!」


桃花ちゃんはそういって教室に戻っていった。私達は急いで職員室まで教室に戻った。その次の休み時間には……。


「へぇー、琉奈ちゃん1人暮らしなんだ!?」


「うん、両親が他界しちゃって中学の2年から……」


「じゃあ、料理とか家事全般できんだ!!」


「うん、特にお菓子作りが得意でマカロン、カップケーキ、ゼリー、あと和菓子も近所のおばあさんに教えてもらってできるようになったんだ」


「青空さんってなんでもできるんだね! 美人でかわいくって、しかも家事もできて! いいお嫁さんになれそうじゃね?」


春翔くんは自分の少しだけ長い髪を指に絡ませながらそういった。


「そ、そうかなあ……?」


私は少し斜め下を向いてそういった。


「うん!! 僕だったら絶対お嫁さんにするもん!!」


!? 私は顔に熱が集まってくのを感じた。








「? 青空さん、どうしたの? 顔真っ赤だよ、熱でもあるの?」


そういって春翔くんは私のおでこに手を当てようとしてきた。


「……なっ、なんでもない! だだ、大丈夫だから!!」


「そうなの? ならいいけど……ムリそうだったら保健室にいきなよ?」


「うん、大丈夫だから……」



そして放課後。



「桃花ちゃーん、一緒に帰ろー!」


「うん! ……そういえばさ、休み時間に春翔が『僕だったら絶対お嫁さんにする』っていってたじゃん? 春翔、全く気づいてないらしいね、私も冬翔も気づいてんのに……。春翔ってさ、琉奈のこと大好きだよねー」


「えっ!?」


桃花ちゃんは私を見てニヤニヤと笑っている。


「なっ、なんで……?」


「だってさー、授業中ずーっと琉奈と話してるし、話してる時にも目が『大好き!!』って感じでさ、先生に怒られて話してなくてもほぼずーっと琉奈のこと見てるし」


「そ、そうなの……?」


知らなかった……っていうか、なんでそんなに知ってるんだろう?桃花は1番前の席で、私達の様子は見えないはずなのに……。


「……ちょっと、羨ましいな……」


「……えっ、なんかいった?」


「あっ……なんでもない! じゃ、また明日ね〜っ!!」


そういって桃花は家に帰っていった。